和俗男子訓 / 巻二・家の備えと、貧しい友を捨てない心
(因言、家をたつるときは小蔭なきやうにすべし、小蔭は、盜のたよりになれば也、又水のはき場を、よろしくすべし、殊に水に近き逃ならば、なほ又念を入るべし、◯寢入ては、いかなることありても、しれがたし、つれ〱覺悟すべし、刀わきざし、火事羽織、三尺手拭、草鞋など枕もとに置くべし、戸障子は、外より、たやすくあけざるやうにすべし、一生敵をもちたるこゝろをなすべし、◯夜枕もとに置衣服は、兩面にして、おの〱紋をつくべし、袖口は、はさみにして、夜中ふとおきて、着したるとき、目にたゝぬやうに覺悟すべし、◯家內に事あるときは、まづ門にこゝろをつくべし、門を閉て、外にぬぐるところを、吟味すべし、◯路をありくに、やしきなどのかどなば、塀にそふてまはることなかれ、間をへだてゝ、まはるべし、◯門のくぐりが出るとき、入るときは、刀の柄を下緒にもちそへて、頭にかざし、左右にこゝろをつくべし、此心を常に思ふべし、)一世の人、たがひにまづしきときは、友とふかくまじはるといへども、たま〱幸ありて富るか、備へなどよくなれば、まづしきと、ひきゝ友をば、いとひて、うとくなりゆくおほし、杜甫が貧交行に、翻手作雲覆手雨、紛々輕薄何須數、君不見管鮑貧時交、此道今人棄如土、と賦せるごとし、
新字:(因言、家をたつるときは小蔭なきやうにすべし、小蔭は、盗のたよりになれば也、又水のはき場を、よろしくすべし、殊に水に近き逃ならば、なほ又念を入るべし、◯寝入ては、いかなることありても、しれがたし、つれ〱覚悟すべし、刀わきざし、火事羽織、三尺手拭、草鞋など枕もとに置くべし、戸障子は、外より、たやすくあけざるやうにすべし、一生敵をもちたるこゝろをなすべし、◯夜枕もとに置衣服は、両面にして、おの〱紋をつくべし、袖口は、はさみにして、夜中ふとおきて、着したるとき、目にたゝぬやうに覚悟すべし、◯家内に事あるときは、まづ門にこゝろをつくべし、門を閉て、外にぬぐるところを、吟味すべし、◯路をありくに、やしきなどのかどなば、塀にそふてまはることなかれ、間をへだてゝ、まはるべし、◯門のくぐりが出るとき、入るときは、刀の柄を下緒にもちそへて、頭にかざし、左右にこゝろをつくべし、此心を常に思ふべし、)一世の人、たがひにまづしきときは、友とふかくまじはるといへども、たま〱幸ありて富るか、備へなどよくなれば、まづしきと、ひきゝ友をば、いとひて、うとくなりゆくおほし、杜甫が貧交行に、翻手作雲覆手雨、紛々軽薄何須数、君不見管鮑貧時交、此道今人棄如土、と賦せるごとし、
書き下し
(因言、家をたつるときは小蔭なきやうにすべし、小蔭は、盜のたよりになれば也、又水のはき場を、よろしくすべし、殊に水に近き逃ならば、なほ又念を入るべし、◯寢入ては、いかなることありても、しれがたし、つれ〱覺悟すべし、刀わきざし、火事羽織、三尺手拭、草鞋など枕もとに置くべし、戸障子は、外より、たやすくあけざるやうにすべし、一生敵をもちたるこゝろをなすべし、◯夜枕もとに置衣服は、兩面にして、おの〱紋をつくべし、袖口は、はさみにして、夜中ふとおきて、着したるとき、目にたゝぬやうに覺悟すべし、◯家內に事あるときは、まづ門にこゝろをつくべし、門を閉て、外にぬぐるところを、吟味すべし、◯路をありくに、やしきなどのかどなば、塀にそふてまはることなかれ、間をへだてゝ、まはるべし、◯門のくぐりが出るとき、入るときは、刀の柄を下緒にもちそへて、頭にかざし、左右にこゝろをつくべし、此心を常に思ふべし、)一世の人、たがひにまづしきときは、友とふかくまじはるといへども、たま〱幸ありて富るか、備へなどよくなれば、まづしきと、ひきゝ友をば、いとひて、うとくなりゆくおほし、杜甫が貧交行に、翻手作雲覆手雨、紛々輕薄何須數、君不見管鮑貧時交、此道今人棄如土、と賦せるごとし、
現代語訳
(ついでに言えば、家を建てるときは、物陰ができないようにするのがよいです。物陰は盗人の手引きになるからです。また水のはけ口をよく作りなさい。特に水に近い逃げ道ならば、さらに念を入れなさい。◯寝入ってしまうと、どんなことがあっても気づきにくいものです。常日ごろから覚悟しておきなさい。刀や脇差、火事羽織、三尺手拭、草鞋などを枕もとに置いておきなさい。戸や障子は、外から簡単には開けられないようにしなさい。一生、敵を持っているような心構えでいなさい。◯夜、枕もとに置く衣服は、両面とも着られるようにして、それぞれに紋をつけなさい。袖口は鋏のようにして、夜中に急に起きて着たとき、目立たないように心得なさい。◯家の内に事があるときは、まず門に気を配りなさい。門を閉めて、外へ抜けるところを調べなさい。◯道を歩くとき、屋敷などの角がある塀に沿って回ってはいけません。間をあけて回りなさい。◯門のくぐり戸から出るとき、入るときは、刀の柄を下緒に持ち添えて頭にかざし、左右に気を配りなさい。この心を常に思いなさい。)世の人は、互いに貧しいときには友と深く交わっていても、たまたま幸いがあって富んだり、備えなどがよくなったりすると、貧しい友や身分の低い友を嫌って、疎遠になっていく者が多くいます。杜甫の「貧交行」に、手のひらを翻せば雲となり、覆せば雨となる、紛々たる軽薄を、どうして数えるに足りよう、君は見ないか、管仲と鮑叔が貧しかったときの交わりを、この道を今の人は土のように捨てている、と詠んでいるとおりです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『和俗男子訓』・巻二・恩・言葉・芸・備え、日ごろの心得一人に恩をほどこし、恩をしらず、報をなさずと、そしるは、非なり、むくゐをのぞむ程ならば、かねてより、恩ほどこし、物をおくらざるがまされり、むくひんと思ふこゝろなき人は、いやし、とがは、かれにあつて、みづからに、あづからざるなり、一よろこびあるとき、憂あるときに、とばをつゝしむべし、おぼえずして、とばを過すなり、よろこびも、うれえも、程すぎぬれば、其時のごとくにはあらず、こゝにおいて、約にそむき、とばをたがへて、後悔するなり、古き歌に「うれしきもかなしきとも過ぬれば其時ほどは思はざりけり」とよめるごとし、一藝あるものは、おほくは癖あり、其癖をすてゝ、藝をとるべし、長きところを用ひずして、短きところをそしるは、藝を好まざればなり、たま〱藝ありて、癖なく、人品よきと、いはるゝものを、見るに、過半は、其藝下手なり、人と、藝と、兼備へたるは、稀なりといへり、一當分いらざる事なりとも、もしかゝる事もあらん時は、いかにすべきやと、思慮をめぐらし、わきまへがたきことをば、同志と共に、吟味して居るべし、かゝれば、事にのぞめるとき、うたがふこゝろなくして、やすらかなり、
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『和俗男子訓』・巻二・親しい友にも言葉を卑しくしない一友とまじはるに、いかほど心やすくとも、とばをいやしくすることなかれ、數年を經ても、其しる人になりしときのやうにすべし、かゝれば、いつまでも、まじはり、たゆることなし、今の世の人を見るに、奴僕馬夫のよりあひのごとし、かく不敬にして、害を生ずるは、みづからまねく所なり、俗間の歌に「わがよきに人のあしきがあらばこそ人のあしきはわがあしきなり」、一友とまじはるに、あまりに、ふかくおもひ過せば、又それほどの恨生ずるなり、一むかし下京邊に、家富たる法師あり、平貞盛と友善、あるとき貞盛陸奧國よりのぼりて、かの僧がもとにゆきけるに、法師、いさゝかの事ありて、齋するよしをいひければ、貞盛家人等をば、私宅に歸して、たゞ一人、僧が家に宿しけり、夜半すぐるころ、盜十人ばかり、門をひらきて押入ければ、貞盛わざと、盜の中にまじはりて、財寶のなきかたに、をしへやりて、征矢をもつて、うしろより、二人射たをし、奧のかたにかけ入、鏑をつがひて、さん〱に射ければ、三人射ふせられ、殘る五人は、逃うせたり、射ふせられたる者の中に、息のかよふありしかば、かれに問ふて、其黨類を、とく〱誅しけり、此法師、よき友ありし故、おもはずして害を遁れたり、
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『家道訓』巻之一・総論上一凡、家内の平日の用心は、かねてより早くすべし。第一に、来年の秋までの糧米をそなへ、次に塩醬をたくはへ、脯醢をつくり、薪炭油をかねてよりあつむべし。右の貯なければ、家の計たたず。奴婢をあはれみ、其衣食居処を察して飢寒せしめず、其所を得せしむべし。男女内外の別を正しくし、武士は、鎗長刀弓矢鉄炮杖棒等を、常に便よき所におくべし。常に用ふる器をととのへ備へ、器のそこなへるをば修補し、屋宅蔵庫牆壁の破損せるをはやく修理し、材木竹茅土石を求め貯へ、馬をよく飼ひ、其外、家に飼ふべき畜類をやしなひ、菜蔬草木、時に順つてうゑやしなふべし。蔵のあけたて出し入れを察し、盗賊と火災との用心、つねにきびしくしておこたるべからず。火をふせぐ器なども平日備ふべし。凡家内のこと、つねに心を用ひておこたるべからず。
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『和俗男子訓』・巻二・倹約と、人材を第一とする心一前編に記せしごとく、もつぱら、儉約をまもりて、無用の事に、米錢をついやすことなかれ、むかし唐の太祖のとき、金玉にて飾れる、鞍轡を、たてまつるものあり、太祖これをしりぞけて、いはく、われもとむるところのものは、文武の材能なり、用るところのものは、穀粟布帛なり、他の寶玩は、このむところにあらずと、しりぞけられたり、人君は、まづ文武の士をあげて、賞すべし、次に米穀布帛をたくはえて、不虞の備とすべし、(山城國宇治に、辻閑入齋といふ者あり、家もさのみまづしからざりけるが、冬はあたらしき木綿布子、夏はあたらしき太布を着たり、近所のものども、足下は、上つかたへも、つれに參るなれば、少し身なつくろへかしといへば、いかにつくろふとも、上つかたの御目よりは、なほ不足におぼすべし、麁相なりとても、あたらしきものゝよしとして、一生美服を着せざりしとかや、延寶年中の事なり、)
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『和俗男子訓』・巻一・文を終生学んでも武備は忘れぬ一文學はまなび得ることかたく、武術はまなび得ることやすし、たとへば、百武人は得るとも、一文士は得るべからず、そのかみ揚雄は、詞賦をだに、小技なりとして、彫蟲篆刻になぞらへ、壯夫これをつくることを恥といへり、況や小藝をや、しかりといへども、武を以て家業とする者は、おこたることなかるべし、但し身を終るまで、文學をなすとも、一日も武備をば忘るべからず、今文學にこゝろざすものを見るに、武備のごときは、底をたゝいて竭たるがごとし、あゝ是たれがあやまちぞや、
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『和俗男子訓』・巻二・自分に似た者を好む偏りを戒める一子華子說云、子車氏が豭、其色粹にして黑し、此豭、三ッの豚をうめり、二ッは粹にして黑く、一ッは駁にして白し、己に類せざるをにくみ、噛てこれを殺し、己に同じきものを、やしなひ、そだてしといへり、よき人なれども、己にくみせざればにくみ、あしき人なれ共、己にくみするものを、よろこぶは、俗情なり、善人のたちかたき、惡人ののぞきがたきは、ともに是古今の通弊なり、この故に杜陵が詩にも、新松恨不長千尺、惡竹須應斬萬竿と賦せり、一世上に人をはかりて、一旦は富を得たるものあれども、身を全することあたはず、己ひとり智ありとおもへども、人もまた智あり、たとへば、かりそめに漆りたる器の、程なくはぐるがごく、後には、いつはりあらはるゝなり、たゞ拙きを養ひ、愼て信を守るべし、たとへば、はじめより木地の器は、見たるところ、よろしからねども、漆たる器のはげたるよりは、まされるにおなじ、

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