倭忠経 / 忠諫章第十五・悪の芽は初めに摘み、へつらいの臣を退ける
をくれて事ならず。凡一切の事。そのはじめをとゞむるときは。その事とまりやすしたとへば。病をくすゝに。その初發を療ずれば。其病癒やすし。然るをはじめを由斷して。いよ〳〵重く成ぬれば。治するに功なし。人の惡念のおこるところ。猶是におなじ。周易にも。父をころし。君を殺は。一朝一夕の故にあらずと云て。大逆を行人。にはかにその念の發る事なし。日比の惡念。つみかさねてかくのごとし。されば君の惡念の。はじめをよく見知りて。その發處をいさめば。などか諫おふせざらんや。扨又せめて。君の惡をいさめざるのみは。臣の職をうしなふのみ。猶も姦人のありさまは。君のおもひがけもなき處に。さま〴〵なる非道を。ひそかに思案し出し。君の惡を迎求。さぐり出す、是不忠の至極なり。これらはみな。當座の奉祿を望み。我身を愛し。主人をおろそかにする人なり。かゝる佞人をよく見知り。すみやかに追しりぞくれば。かさねて媚をもとむる臣。出べからず。又臣たる者は。この理をよくわきまへ。君のあしきは。臣の油斷よりおこると云事を。たしかにわきまへしりて。諸事をかゝり見ず。いさめをむねとすべきなり。
新字:をくれて事ならず。凡一切の事。そのはじめをとゞむるときは。その事とまりやすしたとへば。病をくすゝに。その初発を療ずれば。其病癒やすし。然るをはじめを由断して。いよ〳〵重く成ぬれば。治するに功なし。人の悪念のおこるところ。猶是におなじ。周易にも。父をころし。君を殺は。一朝一夕の故にあらずと云て。大逆を行人。にはかにその念の発る事なし。日比の悪念。つみかさねてかくのごとし。されば君の悪念の。はじめをよく見知りて。その発処をいさめば。などか諫おふせざらんや。扨又せめて。君の悪をいさめざるのみは。臣の職をうしなふのみ。猶も姦人のありさまは。君のおもひがけもなき処に。さま〴〵なる非道を。ひそかに思案し出し。君の悪を迎求。さぐり出す、是不忠の至極なり。これらはみな。当座の奉禄を望み。我身を愛し。主人をおろそかにする人なり。かゝる佞人をよく見知り。すみやかに追しりぞくれば。かさねて媚をもとむる臣。出べからず。又臣たる者は。この理をよくわきまへ。君のあしきは。臣の油断よりおこると云事を。たしかにわきまへしりて。諸事をかゝり見ず。いさめをむねとすべきなり。
書き下し
をくれて事ならず。凡一切の事。そのはじめをとゞむるときは。その事とまりやすしたとへば。病をくすゝに。その初發を療ずれば。其病癒やすし。然るをはじめを由斷して。いよ〳〵重く成ぬれば。治するに功なし。人の惡念のおこるところ。猶是におなじ。周易にも。父をころし。君を殺は。一朝一夕の故にあらずと云て。大逆を行人。にはかにその念の發る事なし。日比の惡念。つみかさねてかくのごとし。されば君の惡念の。はじめをよく見知りて。その發處をいさめば。などか諫おふせざらんや。扨又せめて。君の惡をいさめざるのみは。臣の職をうしなふのみ。猶も姦人のありさまは。君のおもひがけもなき處に。さま〴〵なる非道を。ひそかに思案し出し。君の惡を迎求。さぐり出す、是不忠の至極なり。これらはみな。當座の奉祿を望み。我身を愛し。主人をおろそかにする人なり。かゝる佞人をよく見知り。すみやかに追しりぞくれば。かさねて媚をもとむる臣。出べからず。又臣たる者は。この理をよくわきまへ。君のあしきは。臣の油斷よりおこると云事を。たしかにわきまへしりて。諸事をかゝり見ず。いさめをむねとすべきなり。
現代語訳
遅れて間に合いません。およそ一切の事は、その始めを止めるときは、その事が止まりやすいのです。たとえば、病を薬で治すのに、その初発を療治すれば病は癒えやすく、始めを油断していよいよ重くなってから治そうとしても、効き目がありません。人の悪念が起こるところも、これと同じです。周易にも、父を殺し、君を殺すのは、一朝一夕の理由ではない、といって、大逆を行う人も、突然その念が発するものではありません。日頃の悪念が積み重なってこのようになるのです。ですから、君の悪念の始めをよく見知って、その発するところを諫めるなら、どうして諫め遂げられないことがありましょうか。また、せめて君の悪を諫めないだけなら、臣の職を失うだけのことです。さらに姦人の有様は、君の思いがけないところに、さまざまな非道をひそかに思案し出し、君の悪を迎え求め、探り出します。これは不忠の至極です。これらはみな、当座の俸禄を望み、わが身を愛して、主人をおろそかにする人です。このような佞人をよく見知り、速やかに追い退ければ、重ねて媚びを求める臣は出てこないでしょう。また、臣たる者は、この理をよくわきまえ、君の悪いことは、臣の油断から起こるということをしっかりと心得て、諸事を傍観せず、諫めを第一とすべきです。
解説
この章句が説くこと
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『徂徠先生答問書』卷中惣じて諫に限らずわれを信仰せざる人に向ひて道理を説候事何の益も無之事に候。今世に君を諫め人に異見を申候は、大形は傍人を聞手に立候心多く御座候。是は専ら公事人の心に候へば、争の真中に候故に、諫は大形は君の悪を激する事に罷成り、身も死し諫も行はれず、只諫臣といふ名を取り候事に止り候。然れば忠臣にてはなくて名聞の甚敷にて候。先如此心得可申事に候。然共其職分にはまりて我身の事のごとくに存候人は、時にとりては申さで叶はぬ事ある物に候。それは其時の事に候。已上。
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『韓非子』初見秦第一然り而して兵甲頓れ、士民病み、蓄積索き、田疇荒れ、囷倉虚しく、四隣の諸侯服せず、霸王の名成らず。此れ異なる故無し、其の謀臣皆な其の忠を尽くさざればなり。
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『翁問答』上卷之本大臣の忠節は、其業大なる故に大忠と云、小臣の忠節は、其事小なる故に小忠と云ふ、主君の嫌ふ事にても、君の為め国家の為め家中の為めによき事なれば、主君の必ず行ひ給ふ様に、能く諫めを成し、主君の好む事にても、悪しき事なれば、必ず止め給ふ様に能く諫めて、主の心立身持道に叶ひ、万化の本を正し、国を穏かに末永く栄へ給ふ様にと、一心に思ひ入れ、我が身の為めは少しも顧みず、竜逢比干の諫めて死したる心を守り身を棄て主の為めを第一にするを大忠と云ふ、是は家老出頭の忠節なり是非善悪を撰ばず、主の下知に従ひて、一心に君を敬ひ身を棄て、其職分を勤仕するを小忠と云ふ、是は小身なる臣下の忠節なり、
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『山鹿語類』士道・勵忠孝されば古来伯禹の洪水を導き、皐陶の為士官、道こゝに正しく、伊尹傅説が商に勲猷を立、周公旦召公奭の周の世に政道を輔佐せしより、歴代の大臣忠を尽して世をまつりごち、民を救て其大功を治世に立、周の太公望、漢の張良、蜀の諸葛孔明が戦伐の功を以て乱世に道義を存し、関竜逢が夏の桀を諫めて就炮烙之刑、比干が殷の紂を諫て逢七竅之害、衛史魚が己れが屍を牖下にすてしめて霊公を諫、周舎が願為諤々之臣て趙簡子が過を諫、漢汲黯が武帝を面折し、朱雲が成帝のために折檻の諫を行、各人主の怒を侵して己が死を不顧。斉昼邑の王蠋、燕の軍にやぶられて、燕王是を万戸侯に封ぜんと有けれども、忠臣不事二君、貞女不更二夫と云て、ついにくびれ死す。唐顔杲卿が禄山を罵て、其舌をたゝれて死す。是皆忠立て其道を尽すに至れり。君につかへて其徳をねるに非ずや。徳こゝに不正ば、何を以てか如此に可至。
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『不動智神妙録』諫言 其一 忠を尽くす内々存寄候事、御諫可申入候由、愚案如何に存候得共、折節幸と存じ及見候処あらまし書付進し申候、貴殿事、兵法に於て今古無双の達人故、当時官位俸禄世の聞えも美々敷候、此大厚恩を寐ても覚ても忘るゝことなく、旦夕恩を報し忠を尽さんことをのみ思ひたまふべし、
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『晏子春秋』外篇上・景公台成盆成適願合葬其母晏子諫而許子胥は其の君に忠なり、故に天下皆得て以て臣と為さんと願う。孝己は其の親を愛す、故に天下皆得て以て子と為さんと願う。今人の子と為りて其の親戚を離散す。孝ならんや、臣と為すに足らんや。此くの若くして祔するを得ば、是れ生臣にして死母を安んずるなり。此くの若くして得ざれば、則ち臣請う、屍車を挽き、之を国門外の宇溜の下に寄せ、身は敢えて飲食せず、轅を擁し輅を執り、木乾き鳥棲み、肉を袒ぎ骸を暴し、以て君の湣れむを望まん。賤臣愚なりと雖も、竊かに意うに、明君は哀れみて忍びざらん」と。晏子入りて公に復す。公忿然として色を作して怒り、曰く、「子何ぞ必ず若の言を患えて、寡人に教うるや」と。晏子対えて曰く、「嬰之を聞く、忠は危うきを避けず、愛は悪言を惡まず。且つ嬰は固より以て之を難しとせり。今君営処を遊観と為し、既に人の有を奪い、又其の葬を禁ず。仁に非ざるなり。心を肆にし聴くに傲り、民の憂いを恤えざるは、義に非ざるなり。若何ぞ聴く勿からん」と。因りて盆成適の辞を道う。公喟然として太息して曰く、「悲しいかな。子復た言う勿れ」と。乃ち男子の袒免し、女子の髽する者百数を以て使わしむ。為に凶門を開き、以て盆成適を迎う。適衰絰を脱ぎ、条纓を冠し、墨縁して、以て公に見ゆ。

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