倭忠経 / 觀風章第九・使者は主君の目と耳として公正に見る
觀風章第九それ臣たる者。上の仰を蒙り。四方に出て使する時は。先その所々の風俗の善惡を。見聞事を第一とせり。使は主人のかはりなれば。猶君の兩眼兩耳のごとし。然れば耳に聞辭をば。いかにも善を善とし。惡を惡と聞知り。眼に見る處をば。是非を明らかに見分べし。きく事さとき時は。事のはじめ終を詳にするなり。見る事明らかなれば是非善惡の理をわきまふ。理を辨れば。誠の忠ありて。心くらからず。事をとり行所。詳なれば。まことありて。物にまどふ事なし。故に。此役に當る人は。私の欲心を去りて。心をいさぎよくすべし。凡人の臣たるもの。主君の左右にある時は。をのづから私の働。おこる事稀なれ共。遠國他鄕にいたる時は。主人のそばをはなれ。又は主人の威をかりて。他方の人用ゆるゆへに。愛におゐて。利欲にまどひ。不義非道おこりやすし。然れば常よりはことにつゝしみ。その行儀を正しくする時は。をのづからゆくさき。邪なる人とほざくものなり。扨天理にそむきて。人をやぶりそこなはず。たとへ大身富貴の人なり共。それにめでゝ。あしきをもよきとするは。主人の爲ならず。たとへ己がわたくしの。遺恨ある人なり共。善ある人をばよしとし。己が親類眷屬なり共。惡人をば。
新字:観風章第九それ臣たる者。上の仰を蒙り。四方に出て使する時は。先その所々の風俗の善悪を。見聞事を第一とせり。使は主人のかはりなれば。猶君の両眼両耳のごとし。然れば耳に聞辞をば。いかにも善を善とし。悪を悪と聞知り。眼に見る処をば。是非を明らかに見分べし。きく事さとき時は。事のはじめ終を詳にするなり。見る事明らかなれば是非善悪の理をわきまふ。理を弁れば。誠の忠ありて。心くらからず。事をとり行所。詳なれば。まことありて。物にまどふ事なし。故に。此役に当る人は。私の欲心を去りて。心をいさぎよくすべし。凡人の臣たるもの。主君の左右にある時は。をのづから私の働。おこる事稀なれ共。遠国他郷にいたる時は。主人のそばをはなれ。又は主人の威をかりて。他方の人用ゆるゆへに。愛におゐて。利欲にまどひ。不義非道おこりやすし。然れば常よりはことにつゝしみ。その行儀を正しくする時は。をのづからゆくさき。邪なる人とほざくものなり。扨天理にそむきて。人をやぶりそこなはず。たとへ大身富貴の人なり共。それにめでゝ。あしきをもよきとするは。主人の為ならず。たとへ己がわたくしの。遺恨ある人なり共。善ある人をばよしとし。己が親類眷属なり共。悪人をば。
書き下し
觀風章第九それ臣たる者。上の仰を蒙り。四方に出て使する時は。先その所々の風俗の善惡を。見聞事を第一とせり。使は主人のかはりなれば。猶君の兩眼兩耳のごとし。然れば耳に聞辭をば。いかにも善を善とし。惡を惡と聞知り。眼に見る處をば。是非を明らかに見分べし。きく事さとき時は。事のはじめ終を詳にするなり。見る事明らかなれば是非善惡の理をわきまふ。理を辨れば。誠の忠ありて。心くらからず。事をとり行所。詳なれば。まことありて。物にまどふ事なし。故に。此役に當る人は。私の欲心を去りて。心をいさぎよくすべし。凡人の臣たるもの。主君の左右にある時は。をのづから私の働。おこる事稀なれ共。遠國他鄕にいたる時は。主人のそばをはなれ。又は主人の威をかりて。他方の人用ゆるゆへに。愛におゐて。利欲にまどひ。不義非道おこりやすし。然れば常よりはことにつゝしみ。その行儀を正しくする時は。をのづからゆくさき。邪なる人とほざくものなり。扨天理にそむきて。人をやぶりそこなはず。たとへ大身富貴の人なり共。それにめでゝ。あしきをもよきとするは。主人の爲ならず。たとへ己がわたくしの。遺恨ある人なり共。善ある人をばよしとし。己が親類眷屬なり共。惡人をば。
現代語訳
臣たる者が主君の命を受けて四方へ使いに出るとき、まず第一にすることは、その土地ごとの風俗の善し悪しを見聞きすることです。使者は主人の代わりですから、ちょうど君主の両目両耳のようなものです。耳で聞くことは、善を善、悪を悪としっかり聞き分け、目で見ることは、是非をはっきり見分けなければなりません。聞くことに敏ければ、物事の始めから終わりまで詳しく分かり、見ることが明らかならば、是非善悪の道理をわきまえます。道理が分かれば誠の忠があって心は曇らず、事の処理が詳細であれば誠実さがあって、物事に惑うことがありません。ですから、この役に当たる人は、私の欲心を去り、心を清くすべきです。およそ人の臣たる者は、主君の側にいるときは、自然と私の働きが起こることは稀ですが、遠国や他郷へ行くときは、主人の側を離れ、あるいは主人の威を借りて他所の人を使うため、利欲に惑い、不義非道が起こりやすいのです。そこで普段よりいっそう慎み、行儀を正しくすれば、自然と行く先々で邪な人は遠ざかるものです。さて、天の理に背いて人を傷つけ損なってはなりません。たとえ大身の富貴の人であっても、それに心を寄せて悪をよしとするのは、主人のためになりません。たとえ自分個人に恨みのある人であっても、善のある人はよしとし、自分の親類縁者であっても、悪人については(次の章に続きます)。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『倭忠経』・盡忠章第十八・民の望みに添い、礼をもって国を和す孝行を行へと云ひ。民もと利を好めば。其心をはかりて。利あるやうにと施し。少も民の望に。さかはぬやうに。政を布施し。扨その上に。禮法を以て。上下の差別。人〻の心の和睦する。道ををしゆ。かくのごとくなるうちに。もし大勢の中に。惡人あれば。やむ事をゑず。その者を刑罰し。少も罪のかろき者を。ころす事なし。然れば人〻。をのれと不善をはぢて。殺す人をうらみず。猶も仁道の。民を子のごとく。愛する惠を。普く一國にひろむ。故にその君恩を。蒙る所の國〻。此君。萬〻歲と唱て。人のなつき親事。父母に仰つかふるが如し。然れば此誠。天神地祇に感通ありて。諸の福打つゞき。天下たいらかならん事。掌を返が如し。尤人〻よろこびて。或は詩に作り。或は歌にうたひて。萬代の後まで。德をかゞやかす。大臣の忠。いづれか是にしく事あらんや。此書天子へ奏覽するゆへ。天下を祝し。萬〻歲の長久を。終の章に。かさとめ畢。倭忠經下 終
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『倭忠経』・盡忠章第十八・忠の極みは広く行き渡り天下を治める盡忠章第十八臣たる者。忠の至極を行ひ盡せば。一人のみならず。人〻見ならひ。一天下に。ひろく忠のみちおこなはれて。いかなる匹夫のたぐひまで。忠を行ずと云事なし。かくのごとくなる時は。則天下無事にして。政やすらかに行はる。扨才能有て。官位かね備る人の忠は。君の爲。隨分心をつくし。國家の太平をまねく。下〻の忠は。上の爲に力をつくし。一命をも君に奉り。身をおしまぬを忠といふ。是は我身ひとつの忠なり。官位備る人の忠は。一家。一國。一天下へ。忠を行ひ廣るゆへ。その忠大ひに行はる。かるがゆへに。明君の國を治るには。第一賢なる者を。見しり聞出して。國の政を。その賢者に任にあり。扨賢者は。眞實の忠を盡ゆへ。君の德ひろく天下にあまねし。いかにして。かくのごとく。施とほくひろきぞと云に。民に敎ほどこす道。すこしも私なく。實を以て號令を定。まづ人たる者。生れ付て。親を愛する念あれば。それにもとづき。
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『春秋左氏伝』襄公二十六年 上下其手楚子・秦人、吳を侵し、雩婁に及ぶ。吳の備へ有るを聞きて還る。遂に鄭を侵す。五月、城麇に至る。鄭の皇頡之を戍る。出でて楚師と戰ひ、敗る。穿封戌皇頡を囚ふ。公子圍之と之を爭ふ。伯州犁に正す。伯州犁曰く、「請ふ囚に問はん」と。乃ち囚を立つ。伯州犁曰く、「爭ふ所は君子なり。其れ何ぞ知らざらん」と。其の手を上げて曰く、「夫子を王子圍と為す。寡君の貴介弟なり」と。其の手を下げて曰く、「此の子を穿封戌と為す。方城外の縣尹なり。誰か子を獲たる」と。囚曰く、「頡、王子に遇ひて弱れたり」と。戌怒り、戈を抽きて王子圍を逐ふも、及ばず。楚人皇頡を以て歸る。印堇父皇頡と城麇を戍る。楚人之を囚へ、以て秦に獻ず。鄭人貨を印氏に取りて以て之を請はんとす。子大叔令正為り、以て請ひを為る。子產曰く、「獲ざらん。楚の功を受けて貨を鄭に取るは、國と謂ふべからず。秦其れ然らず。若し『君の鄭國に勤むるを拜す。君の惠微かりせば、楚師其れ猶ほ敝邑の城下に在らん』と曰はば、其れ可ならん」と。從はず。遂に行く。秦人予へず。幣を更め、子產に從ひて、而る後に之を獲たり。
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説苑・說叢命を知る者は天を怨みず、己を知る者は人を怨みず。人にして愛せざれば則ち仁なる能わず、佞にして巧ならざれば則ち信なる能わず。善を言うに身に及ぶ毋かれ、惡を言うに人に及ぶ毋かれ。上清くして欲無ければ、則ち下正しくして民樸なり。來事は追うべきなり、往事は及ぶべからず。思慮の心無ければ則ち達せず、談說の辭無ければ則ち樂しからず。
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『武家家訓集』朝倉敏景十七箇条「追書(役人の私と他国の悪党)」一、諸沙汰在所の時、理非少しも曲げらるまじく候。もし役人わたくしも致し候由聞き及ばれ候はば、同罪に堅く申し付けらるべく候。しよちうつろをぎんみ申し候沙汰致し候へば、他国の悪党出でぬものなり。みだりがはしき所と知られ候へば、他家より手を入るるものにて候。
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