倭忠経 / 盡忠章第十八・民の望みに添い、礼をもって国を和す
孝行を行へと云ひ。民もと利を好めば。其心をはかりて。利あるやうにと施し。少も民の望に。さかはぬやうに。政を布施し。扨その上に。禮法を以て。上下の差別。人〻の心の和睦する。道ををしゆ。かくのごとくなるうちに。もし大勢の中に。惡人あれば。やむ事をゑず。その者を刑罰し。少も罪のかろき者を。ころす事なし。然れば人〻。をのれと不善をはぢて。殺す人をうらみず。猶も仁道の。民を子のごとく。愛する惠を。普く一國にひろむ。故にその君恩を。蒙る所の國〻。此君。萬〻歲と唱て。人のなつき親事。父母に仰つかふるが如し。然れば此誠。天神地祇に感通ありて。諸の福打つゞき。天下たいらかならん事。掌を返が如し。尤人〻よろこびて。或は詩に作り。或は歌にうたひて。萬代の後まで。德をかゞやかす。大臣の忠。いづれか是にしく事あらんや。此書天子へ奏覽するゆへ。天下を祝し。萬〻歲の長久を。終の章に。かさとめ畢。倭忠經下 終
新字:孝行を行へと云ひ。民もと利を好めば。其心をはかりて。利あるやうにと施し。少も民の望に。さかはぬやうに。政を布施し。扨その上に。礼法を以て。上下の差別。人〻の心の和睦する。道ををしゆ。かくのごとくなるうちに。もし大勢の中に。悪人あれば。やむ事をゑず。その者を刑罰し。少も罪のかろき者を。ころす事なし。然れば人〻。をのれと不善をはぢて。殺す人をうらみず。猶も仁道の。民を子のごとく。愛する恵を。普く一国にひろむ。故にその君恩を。蒙る所の国〻。此君。万〻歳と唱て。人のなつき親事。父母に仰つかふるが如し。然れば此誠。天神地祇に感通ありて。諸の福打つゞき。天下たいらかならん事。掌を返が如し。尤人〻よろこびて。或は詩に作り。或は歌にうたひて。万代の後まで。徳をかゞやかす。大臣の忠。いづれか是にしく事あらんや。此書天子へ奏覧するゆへ。天下を祝し。万〻歳の長久を。終の章に。かさとめ畢。倭忠経下 終
書き下し
孝行を行へと云ひ。民もと利を好めば。其心をはかりて。利あるやうにと施し。少も民の望に。さかはぬやうに。政を布施し。扨その上に。禮法を以て。上下の差別。人〻の心の和睦する。道ををしゆ。かくのごとくなるうちに。もし大勢の中に。惡人あれば。やむ事をゑず。その者を刑罰し。少も罪のかろき者を。ころす事なし。然れば人〻。をのれと不善をはぢて。殺す人をうらみず。猶も仁道の。民を子のごとく。愛する惠を。普く一國にひろむ。故にその君恩を。蒙る所の國〻。此君。萬〻歲と唱て。人のなつき親事。父母に仰つかふるが如し。然れば此誠。天神地祇に感通ありて。諸の福打つゞき。天下たいらかならん事。掌を返が如し。尤人〻よろこびて。或は詩に作り。或は歌にうたひて。萬代の後まで。德をかゞやかす。大臣の忠。いづれか是にしく事あらんや。此書天子へ奏覽するゆへ。天下を祝し。萬〻歲の長久を。終の章に。かさとめ畢。倭忠經下 終
現代語訳
孝行を行いなさいと言い、民がもともと利を好むなら、その心を推し量って利益があるように施し、少しも民の望みに逆らわないように政を行います。さらにその上に、礼法をもって、上下の差別、人々の心の和睦する道を教えます。このようにする中で、もし大勢の中に悪人がいれば、やむを得ずその者を刑罰し、少しでも罪の軽い者を殺すことはありません。そうすれば人々は、自ら不善を恥じて、殺す人を恨みません。さらに、仁の道で、民を子のように愛する恵みを、あまねく一国に広めます。そのため、その君恩を蒙る国々では、この君は万々歳と唱えて、人々がなつき親しむことは、父母を仰ぎ仕えるようです。このような誠が、天神地祇に感通して、さまざまな福が打ち続き、天下が平らかになることは、掌を返すようにたやすいのです。人々は喜んで、あるいは詩に作り、あるいは歌にうたって、万代の後までその徳を輝かせます。大臣の忠は、これに勝るものがありましょうか。この書は天子にご覧に入れるために、天下を祝し、万々歳の長久を終わりの章に重ねて結びます。倭忠経下 終。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『倭忠経』・盡忠章第十八・忠の極みは広く行き渡り天下を治める盡忠章第十八臣たる者。忠の至極を行ひ盡せば。一人のみならず。人〻見ならひ。一天下に。ひろく忠のみちおこなはれて。いかなる匹夫のたぐひまで。忠を行ずと云事なし。かくのごとくなる時は。則天下無事にして。政やすらかに行はる。扨才能有て。官位かね備る人の忠は。君の爲。隨分心をつくし。國家の太平をまねく。下〻の忠は。上の爲に力をつくし。一命をも君に奉り。身をおしまぬを忠といふ。是は我身ひとつの忠なり。官位備る人の忠は。一家。一國。一天下へ。忠を行ひ廣るゆへ。その忠大ひに行はる。かるがゆへに。明君の國を治るには。第一賢なる者を。見しり聞出して。國の政を。その賢者に任にあり。扨賢者は。眞實の忠を盡ゆへ。君の德ひろく天下にあまねし。いかにして。かくのごとく。施とほくひろきぞと云に。民に敎ほどこす道。すこしも私なく。實を以て號令を定。まづ人たる者。生れ付て。親を愛する念あれば。それにもとづき。
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『政談』譜代者の事御陣の御供をせんとき手形一枚にて召し置きたる家来を召し連れ、箱根をも笛吹をも越したらは皆欠落仕るへし、是れ譜代にあらされは叶はさる証拠なり、又騎馬と云ふは当時は皆主人の数はかりなれは、日本国中惣高二千万石にして日本の武者の惣数三万余騎なり、古は日本の惣軍兵三十三万騎と云ひたるには十分一に成たり、何とて軍者は此の所まては料見せぬことなるそ、其の上只今太平の時節の上にても出替り者計を召使ふ故自然と家来の愛憐なく、一年切成る故其の心互に路人を見るか如し、何にても六ケ敷きことなれは請人を呼ひ寄せ暇を遣せは我か身にかゝることなしと料見す、奉公人も江戸中は皆主人なりと料見す、斯の如くなる心根風俗となる故、自然と下より上へ移り其の主人々々も上へ忠を尽すこと次第になくなるは習はしの移る所なり、
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『倭忠経』・觀風章第九・使者は主君の目と耳として公正に見る觀風章第九それ臣たる者。上の仰を蒙り。四方に出て使する時は。先その所々の風俗の善惡を。見聞事を第一とせり。使は主人のかはりなれば。猶君の兩眼兩耳のごとし。然れば耳に聞辭をば。いかにも善を善とし。惡を惡と聞知り。眼に見る處をば。是非を明らかに見分べし。きく事さとき時は。事のはじめ終を詳にするなり。見る事明らかなれば是非善惡の理をわきまふ。理を辨れば。誠の忠ありて。心くらからず。事をとり行所。詳なれば。まことありて。物にまどふ事なし。故に。此役に當る人は。私の欲心を去りて。心をいさぎよくすべし。凡人の臣たるもの。主君の左右にある時は。をのづから私の働。おこる事稀なれ共。遠國他鄕にいたる時は。主人のそばをはなれ。又は主人の威をかりて。他方の人用ゆるゆへに。愛におゐて。利欲にまどひ。不義非道おこりやすし。然れば常よりはことにつゝしみ。その行儀を正しくする時は。をのづからゆくさき。邪なる人とほざくものなり。扨天理にそむきて。人をやぶりそこなはず。たとへ大身富貴の人なり共。それにめでゝ。あしきをもよきとするは。主人の爲ならず。たとへ己がわたくしの。遺恨ある人なり共。善ある人をばよしとし。己が親類眷屬なり共。惡人をば。
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『倭忠経』・觀風章第九・使者の働きが主君の名を上げも下げもするあしゝとし罰をゆるさず。かくのごとくすれば。善人は下よりゑらみ出され。己が德をあらはし。惡人はしりぞけられ。遁出されても。上をうらみず。是使者をうけたまはる人の忠なり。誠に使者たる人邪ならば。下々のめいわくも。上へ聞ゆべからず。下に賢なる人ありとても。君へ達する事有べからず。第一主人の名を揚も下すも。使者のはたらきに依れり。子貢。士の道をたづねしにも。四方に使して。君命をはづかしめざるを。士と云べしと。孔子もをしへ給へり。かくの如忠ある人は。君の名を他國までかゝやかし。不忠の人は。却て主人をはづかしむ。されば專。行義造法を恭しく敬べき事。肝要なり。殊に軍陣の使番を承るは。家の面目共し。又は一太事にも思ふべき事なり。あるひは敵の多少。山川のかけ引。あるひは戰を待か。進か。味方の勝色負いろを見しるも。皆使番の眼によれりとかや。然れば萬端に付て。主人の兩眼なる事を。たしかにわきまへ。つねに邪の念なく。忠義を守べし。詩經にも使者となりて。國々をはせめぐり。我身の苦勞をかへり見ず。善人をもとめ出さんと計を。つかひの職と云へり。然れば國の昌とかしぐると。人の賢と惡とを能見聞を。使者たる人の。第一の忠とするなり。
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『晏子春秋』問下・梁丘據問子事三君不同心晏子對以一心可以事百君梁丘据、晏子に問いて曰く、「子は三君に事え、君の心同じからざるに、子は俱に順う。仁人は固より多心なるか」と。晏子対えて曰く、「嬰之を聞く、順愛して懈らざれば、以て百姓を使う可し。強暴にして不忠なれば、以て一人を使う可からず。一心なれば以て百君に事う可く、三心なれば以て一君に事う可からず」と。仲尼之を聞きて曰く、「小子之を識せ、晏子は一心を以て百君に事うる者なり」と。
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『大和俗訓』巻之六・躬行上一善も悪も、かならず小をつみて大にいたる。故に善は小なりとて棄つべからず、悪は小なりとて行ふべからず。一古語に、忠臣は二君につかへず、烈女は両夫に更めずといへり。君子の道、節義を守るをおもしとす。節義とは、臣の君につかへ、婦の夫につかふるに、一すぢに忠節義理ありて二心なく、二君につかへず、両夫にあらためず。もし不幸にして、わが身艱難にくるしむとも、君をすて、夫にそむきて、身命ををしむべからず。命を失ふと忠貞の志を改めざるを、節義と云ふ。万の事いみじく、才能ありてうるはしき人も、節義をうしなひて、君にそむきて難をのがれ、夫をすてて人にしたがはば、其余は見るにたらず。一たび節義をうしなひて、利ある方につき、害ある方をのがれ、或は死ぬべき時に死なざれば、一生の名をけがすのみならず、後代までも、ながき悪名をながす。

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