倭忠経 / 冢宰章第三・冢宰章 君臣一体と不忠の末路
人來りて用を云ば。かみを握て逢給ふ。是みなかりにも無禮をにくみ。慇懃を守り給ふに依てなり。扨又下たるものに。憐愍をほどこし。一國一家のうちにおゐて。きはめて能ものを目利し。其器量をはかり役に備へ。あしきものを遠ぐ。かくのごとく利欲をはなれ。富貴榮花をかへり見ず。眞實に忠を行ときは。其化必。となりを得て。ほどなく四海にあまねからん。然は大臣に備る人は。君を尊ぶ事は。天地の大なるごとく。己が心をみがく事は。日月の明らかなるごとく。萬民を調和事陰陽のをしうつり。春夏秋冬の。たがひに變化して。萬物を生ずるごとく。あながち下知を加ざれ共。下民をのづから歸服して。君の聖德天下にうるほひ。普天率土のはてまでも。この君の萬歲をとなふ。是大臣と君と。一躰たる忠なり。書經にも云へり。君は人のかしらのごとく臣は人の手足のごとしと。貴き事は首。いやしき事は手足といへ共。本一躰たり。君よろこびあれば。臣もとより悅。君憂あれば。臣も亦憂。かく君臣一躰となりて。たがひに德を合時は。萬事萬端滯なく。事難澁する事なし。然るに不忠の臣たる者は。己が利欲に。一躰たる主人をわすれ。我身のみを愛し一分の私にまかせ。益なき金銀に目がけ。やゝもすればその爲に。人をくるしめ主君をあやうくし。其事あまり過ぬれば。我身も亡び。妻子眷屬。東西にまよひ。幾世の人の口すさみと成事。是みな文學を好まず。忠義をしらぬ故なるべし。
新字:人来りて用を云ば。かみを握て逢給ふ。是みなかりにも無礼をにくみ。慇懃を守り給ふに依てなり。扨又下たるものに。憐愍をほどこし。一国一家のうちにおゐて。きはめて能ものを目利し。其器量をはかり役に備へ。あしきものを遠ぐ。かくのごとく利欲をはなれ。富貴栄花をかへり見ず。真実に忠を行ときは。其化必。となりを得て。ほどなく四海にあまねからん。然は大臣に備る人は。君を尊ぶ事は。天地の大なるごとく。己が心をみがく事は。日月の明らかなるごとく。万民を調和事陰陽のをしうつり。春夏秋冬の。たがひに変化して。万物を生ずるごとく。あながち下知を加ざれ共。下民をのづから帰服して。君の聖徳天下にうるほひ。普天率土のはてまでも。この君の万歳をとなふ。是大臣と君と。一体たる忠なり。書経にも云へり。君は人のかしらのごとく臣は人の手足のごとしと。貴き事は首。いやしき事は手足といへ共。本一体たり。君よろこびあれば。臣もとより悦。君憂あれば。臣も亦憂。かく君臣一体となりて。たがひに徳を合時は。万事万端滞なく。事難渋する事なし。然るに不忠の臣たる者は。己が利欲に。一体たる主人をわすれ。我身のみを愛し一分の私にまかせ。益なき金銀に目がけ。やゝもすればその為に。人をくるしめ主君をあやうくし。其事あまり過ぬれば。我身も亡び。妻子眷属。東西にまよひ。幾世の人の口すさみと成事。是みな文学を好まず。忠義をしらぬ故なるべし。
書き下し
人來りて用を云ば。かみを握て逢給ふ。是みなかりにも無禮をにくみ。慇懃を守り給ふに依てなり。扨又下たるものに。憐愍をほどこし。一國一家のうちにおゐて。きはめて能ものを目利し。其器量をはかり役に備へ。あしきものを遠ぐ。かくのごとく利欲をはなれ。富貴榮花をかへり見ず。眞實に忠を行ときは。其化必。となりを得て。ほどなく四海にあまねからん。然は大臣に備る人は。君を尊ぶ事は。天地の大なるごとく。己が心をみがく事は。日月の明らかなるごとく。萬民を調和事陰陽のをしうつり。春夏秋冬の。たがひに變化して。萬物を生ずるごとく。あながち下知を加ざれ共。下民をのづから歸服して。君の聖德天下にうるほひ。普天率土のはてまでも。この君の萬歲をとなふ。是大臣と君と。一躰たる忠なり。書經にも云へり。君は人のかしらのごとく臣は人の手足のごとしと。貴き事は首。いやしき事は手足といへ共。本一躰たり。君よろこびあれば。臣もとより悅。君憂あれば。臣も亦憂。かく君臣一躰となりて。たがひに德を合時は。萬事萬端滯なく。事難澁する事なし。然るに不忠の臣たる者は。己が利欲に。一躰たる主人をわすれ。我身のみを愛し一分の私にまかせ。益なき金銀に目がけ。やゝもすればその爲に。人をくるしめ主君をあやうくし。其事あまり過ぬれば。我身も亡び。妻子眷屬。東西にまよひ。幾世の人の口すさみと成事。是みな文學を好まず。忠義をしらぬ故なるべし。
現代語訳
人が来て用事を言えば、髪を握ったままで会われました。これはみな、かりにも無礼を憎み、丁寧を守られたからです。また下の者に憐れみを施し、一国一家のうちで、きわめて優れた者を見きわめ、その器量をはかって役に備え、悪い者を遠ざけます。このように利欲を離れ、富貴栄華を顧みず、真実に忠を行うとき、その感化は必ず隣国にも及び、ほどなく四海にあまねくなるでしょう。そこで大臣に備わる人は、君を尊ぶことは天地の大きなようであり、自分の心を磨くことは日月の明らかなようであり、万民を調和させることは陰陽の移り替わりや春夏秋冬が互いに変化して万物を生ずるようであり、ことさら指図を加えなくても下民はおのずと帰服して、君の聖徳が天下を潤し、天下の果てまでこの君の万歳を唱えます。これが大臣と君とが一体となる忠です。『書経』にも「君は人の頭のようであり、臣は人の手足のようである」と言います。貴いのは頭、卑しいのは手足といっても、もとは一体です。君に喜びがあれば臣ももとより喜び、君に憂いがあれば臣も憂えます。このように君臣が一体となってお互いに徳を合わせるとき、万事万端が滞りなく、事が難渋することはありません。ところが不忠の臣は、自分の利欲に、一体であるはずの主人を忘れ、自分の身だけを愛し、一分の私に任せ、益のない金銀に目をかけ、ともすればそのために人を苦しめ、主君を危うくし、その事があまりに過ぎれば、自分の身も滅び、妻子や眷属も東西にさまよい、幾世の人の口の端にのぼることになります。これはみな学問を好まず、忠義を知らないからでしょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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説苑・政理子產、鄭に相たり。簡公、子產に謂いて曰く、「內政は出す毋かれ、外政は入る毋かれ。夫れ衣裘の美ならざる、車馬の飾らざる、子女の潔からざるは、寡人の醜なり。國家の治まらざる、封疆の正しからざるは、夫子の醜なり。」子產、鄭に相たり、簡公の身を終うるまで、內には國中の亂無く、外には諸侯の患無し。子產の政に從うや、能を擇びて之を使う。馮簡子は事を斷ずるに善く、子太叔は決するに善くして文あり、公孫揮は四國の為す所を知りて其の大夫の族姓を辨じ、變じて立ちどころに至り、又善く辭令を為す。裨諶は謀るに善く、野に於ては獲るも邑に於ては否らず。事有れば乃ち裨諶を載せて之と野に適き、謀りて可否を使め、告げて馮簡子をして之を斷ぜしめ、公孫揮をして之が辭令を為さしめ、成りて乃ち子太叔受けて之を行わしめ、以て賓客に應對す。是を以て鮮に敗事有り。
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説苑・修文天子諸侯事無ければ則ち歲に三たび田す、一を乾豆と為し、二を賓客と為し、三を君の庖に充つと為す。事無くして田せざるを、不敬と曰い、田するに禮を以てせざるを、天物を暴うと曰う。天子は合圍せず、諸侯は群を揜わず。天子殺せば則ち大緌を下し、諸侯殺せば則ち小緌を下し、大夫殺せば則ち佐轝を止め、佐轝止まれば則ち百姓畋獵す。獺魚を祭りて、然る後漁人澤梁に入る。鳩化して鴈と為りて、然る後罻羅を設く。草木零落して、然る後山林に入る。昆蟲蟄せざれば火田せず、麛せず卵せず、殀夭せず、巢を覆さず。此れ皆聖人上に在り、君子位に在り、能者職に在るは、大德の發する所なり。是の故に皋陶大理と為るや、民各おの服して其の實を得。伯夷禮を主どり、上下皆讓る。倕工師と為り、百工功を致す。益虞を主どり、山澤辟き成る。棄稷を主どり、百穀時に茂る。契司徒を主どり、百姓親和す。龍賓客を主どり、遠人至る。十二牧行われて、九州敢えて僻違せず。禹九澤を陂き、九道を通じ、九州を定め、各おの其の職を以て來貢し、厥の宜しきを失わず、方五十里より荒服に至る。南は交趾・大發を撫し、西は析支渠・搜氐羌に、北は山戎・肅慎に至り、東は長夷・島夷に至り、四海の內皆帝舜の功を戴く。是に於て禹乃ち九韶の樂を興し、異物を致し、鳳凰來翔し、天下德を明らかにするなり。
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『長短経』量才〔清節の徳は師氏の任なり。法家の材は司寇の任なり。術家の材は三孤の任なり。臧否の材は師氏の任なり。伎倆の材は司空の任なり。儒学の材は保氏の任なり。文章の材は国史の任なり。驍雄の材は将帥の任なり。〕
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説苑・雜言仲尼曰く、「其の地に非ずして之を樹うれば、生ぜざるなり。其の人に非ずして之に語れば、聴かざるなり。其の人を得れば、沙を聚めて之に雨降らすが如く、其の人に非ざれば、聾を聚めて之に鼓するが如し」と。
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『政談』官位爵祿の次第並に勳階頭助允目の事惣して役儀は其人の得手不得手ある事なり、不得手なる役に申付たるときは役儀の捌き宜しからさるなり、さるに依て之を替んとすれは席を上くるか下くるかせねは役替られぬなり、上かりの役に申付たるは立身になる、下かりの役に申付たるは、その人のいつくするもとより褒美歟、又は懲しめのためならは、あけてもよけんとも、只其人の得手なるむきに、換ゆるまてのことにて、別に褒美にても、懲しめにてもなきに、席を上け下けすること、詮もなきこと、又害も有なり、然れは同席の役をいくつも拵へ置く時は此の差支なきなり、されとも当時は席に名無く、唯〻此役の席と云ふことなる故、役と席とを別々にすへきやうなし、其上席に名を付け置さる故、混乱して、紛はしかるへし、
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『晏子春秋』問上・景公問古之蒞國者任人如何晏子對以人不同能景公、晏子に問いて曰く、「古の国に蒞み民を治むる者は、其の人に任ずること何如」と。晏子対えて曰く、「地は生を同じくせざるに、之に任ずるに一種を以てし、其の倶に生ぜんことを責むるも得可からず。人は能を同じくせざるに、之に任ずるに一事を以てし、遍く成さんことを責む可からず。責めて已む無く、智者も給する能わざる有り。求めて饜く無く、天地も贍す能わざる有り。故に明王の人に任ずるや、諂諛は左右に邇づかず、阿党は本朝に治せず。人の長に任じて、其の短を強いず。人の工に任じて、其の拙を強いず。此れ人に任ずるの大略なり」と。

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