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倭忠経 / 天地神明章第一・天地神明章 忠は金銀のごとく本心を求める

忠はなをし。金銀のごとし。たとへば金銀といふものは。只今の間に。米穀にすべきとも。それ〱の器になさん共。田地屋敷に致さん共。我こゝろのまゝなるものなり。忠の一念を以て。諸事のみちの行るゝ事。猶かくのごとし。世人金銀をば貴で求れ共。此忠をば貴ずしてもとめず。思はざるの甚しきなり。退て愚意を以て考おもふに。大凡人間と。生れたらんものは。その生れ付たる誠を行べき人たるに。私欲利欲にまよひ。却て。禽獸と同じ働なる人。世間に多し。されば善惡を知らぬ人なれば。すべき事なし。幸明らかなる心を。天よりあたへ置たれば。善事をなせば。恥事なく。惡事をすれば。身の恥辱なる事を知りながら。我をあざむき。他人を僞り。目前の利欲にまよひ。たま〱生れ付たる本心を。千里の外にとりはなして。尋ねもとめず。わづかの器だにも。失ひぬればたづねもとむ。しかるに本たる心をば。たづねもとむる事を知らず。おろかなるかな。淺猿かな。さていかにして。本心を求べきとならば。他に問に及ばず。そのよきを善とおもふ心をとり立。利欲の念をおひしりぞけ。君につかへて忠を盡し。親につかへて孝をなせば。是則心を尋ね出せる也。しからば誰をかおそるべき。闇に惡事をなし置て。是を人の知らん事を恐。東西にはしり。南北にかけりて。一生心を安ぜぬは。我とわが身を。くるしめたるものなり。右のごとく善惡の二つを。わが心に問たづねて。一善なりともおこなひもてゆかば。おのづから心の穢も消うせ。全人となるべき事。明らかなる理なり。此首章には。上下の人をかねて。忠の綱領を。いへるなり。

新字:忠はなをし。金銀のごとし。たとへば金銀といふものは。只今の間に。米穀にすべきとも。それ〱の器になさん共。田地屋敷に致さん共。我こゝろのまゝなるものなり。忠の一念を以て。諸事のみちの行るゝ事。猶かくのごとし。世人金銀をば貴で求れ共。此忠をば貴ずしてもとめず。思はざるの甚しきなり。退て愚意を以て考おもふに。大凡人間と。生れたらんものは。その生れ付たる誠を行べき人たるに。私欲利欲にまよひ。却て。禽獣と同じ働なる人。世間に多し。されば善悪を知らぬ人なれば。すべき事なし。幸明らかなる心を。天よりあたへ置たれば。善事をなせば。恥事なく。悪事をすれば。身の恥辱なる事を知りながら。我をあざむき。他人を偽り。目前の利欲にまよひ。たま〱生れ付たる本心を。千里の外にとりはなして。尋ねもとめず。わづかの器だにも。失ひぬればたづねもとむ。しかるに本たる心をば。たづねもとむる事を知らず。おろかなるかな。浅猿かな。さていかにして。本心を求べきとならば。他に問に及ばず。そのよきを善とおもふ心をとり立。利欲の念をおひしりぞけ。君につかへて忠を尽し。親につかへて孝をなせば。是則心を尋ね出せる也。しからば誰をかおそるべき。闇に悪事をなし置て。是を人の知らん事を恐。東西にはしり。南北にかけりて。一生心を安ぜぬは。我とわが身を。くるしめたるものなり。右のごとく善悪の二つを。わが心に問たづねて。一善なりともおこなひもてゆかば。おのづから心の穢も消うせ。全人となるべき事。明らかなる理なり。此首章には。上下の人をかねて。忠の綱領を。いへるなり。

書き下し

忠はなをし。金銀のごとし。たとへば金銀といふものは。只今の間に。米穀にすべきとも。それ〱の器になさん共。田地屋敷に致さん共。我こゝろのまゝなるものなり。忠の一念を以て。諸事のみちの行るゝ事。猶かくのごとし。世人金銀をば貴で求れ共。此忠をば貴ずしてもとめず。思はざるの甚しきなり。退て愚意を以て考おもふに。大凡人間と。生れたらんものは。その生れ付たる誠を行べき人たるに。私欲利欲にまよひ。却て。禽獸と同じ働なる人。世間に多し。されば善惡を知らぬ人なれば。すべき事なし。幸明らかなる心を。天よりあたへ置たれば。善事をなせば。恥事なく。惡事をすれば。身の恥辱なる事を知りながら。我をあざむき。他人を僞り。目前の利欲にまよひ。たま〱生れ付たる本心を。千里の外にとりはなして。尋ねもとめず。わづかの器だにも。失ひぬればたづねもとむ。しかるに本たる心をば。たづねもとむる事を知らず。おろかなるかな。淺猿かな。さていかにして。本心を求べきとならば。他に問に及ばず。そのよきを善とおもふ心をとり立。利欲の念をおひしりぞけ。君につかへて忠を盡し。親につかへて孝をなせば。是則心を尋ね出せる也。しからば誰をかおそるべき。闇に惡事をなし置て。是を人の知らん事を恐。東西にはしり。南北にかけりて。一生心を安ぜぬは。我とわが身を。くるしめたるものなり。右のごとく善惡の二つを。わが心に問たづねて。一善なりともおこなひもてゆかば。おのづから心の穢も消うせ。全人となるべき事。明らかなる理なり。此首章には。上下の人をかねて。忠の綱領を。いへるなり。

現代語訳

忠は金銀のようなものです。たとえば金銀というものは、今すぐ米穀にしようとも、それぞれの器にしようとも、田地屋敷にしようとも、自分の心のままになるものです。忠の一念をもって諸事の道が行われることも、なおこのとおりです。世の人は金銀は貴んで求めますが、この忠は貴んで求めません。思わないにもほどがあります。退いて私の考えで思うに、およそ人間として生まれた者は、その生まれつきの誠を行うべき人であるのに、私欲や利欲に迷い、かえって禽獣と同じ働きをする人が世間に多くいます。善悪を知らない人ならばしかたがありません。幸い明らかな心を天から与えられているので、善事をなせば恥ずることはなく、悪事をすれば身の恥辱になることを知りながら、自分を欺き、他人を偽り、目の前の利欲に迷い、たまたま生まれつきの本心を千里の外に取り離して、尋ね求めません。わずかな器でさえ失えば尋ね求めるのに、根本である心を尋ね求めることを知りません。愚かなことです。あさましいことです。では、どのようにして本心を求めるべきかというと、他に問うには及びません。善をよいと思う心を取り立て、利欲の念を追い払い、君に仕えて忠を尽くし、親に仕えて孝をなせば、これが心を尋ね出したことになります。そうなれば誰を恐れることがあるでしょうか。闇に悪事をなしておいて、これを人が知ることを恐れ、東西に走り、南北に駆けて、一生心を安んじないのは、自分で自分を苦しめているのです。このように善悪の二つを自分の心に問い尋ねて、一つの善でも行っていけば、自然と心の穢れも消え失せ、完全な人となることは明らかな理です。この首章は、上下の人を兼ねて、忠の綱領を述べたものです。

解説

忠は金銀のように、どんな形にも用立てられる万能の価値なのに、人は求めようとしないと嘆く章です。失った道具は探すのに、一番大事な本心を探さない愚かさを突き、善を好む心を立て、利欲を退けよと説きます。現代の管理職にとって、これは自分を欺かない働き方の勧めです。数字や評価のために事実を取りつくろうと、あとで必ず心が重くなります。隠しごとのない仕事は、人の目を恐れずに済み、判断も速くなります。善悪を自分の心に問う習慣が、組織の信頼を守る土台になります。

この章句が説くこと

倭忠経南部立庵天地神明章忠金銀本心

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