倭忠経 / 聖君章第二・聖君章 上に立つ者が範を示す
聖君章第二それ上一人の君。聖人の德を以。明らかに諸の。國の仕置を鑑たまふに。上は一人の天子。それより。國々の諸侯太夫。下々に至るまで。尊べき道そなはれり。さて天子は。萬乘のあるじにてましませば。誰をか尊びたまふと云に。天をたつとみ。天につかふまつりたまひ。又地につかへ。中には先祖の神靈に。つかふまつりたまふ。かくのごとく。天子の御身にてさへ。尊びつかふまつる忠あれば。それを下々見ならひ法て。一天下あまねく。忠をつくさずと云事なし。されば君子の德は風也。小人の德は。草なりと云て。上の人の行を。下たるもの見ならひて。東風吹ば草葉の西になびき。北風には又千草の。南にのべふすがごとし。然れば一國の風俗の。よきも。あしきも。皆その上たる人の。行より發る。あながち。掟を。嚴しくいはざれども。上の德に下々はならへる事。たとへば陽春の氣をうけては。いつとなく梅のほころび。鶯の囀。秋かぜに逢ては。草木の色付葉落るごとく。下の上に化する事。猶是におなじ。このゆへに上たる人は。善惡の本たるゆへに。深き淵にのぞみて。うすき氷をふめるごとくに。諸事行を太事にかけて。日々に心の鏡をとぎたて。下々のうちにも。賢なる人あればそれを愛しあつく祿をあたへて。國の仕置をまかせ。能ある人をば。それ〱の役に任ず。般の湯王は伊尹といふ賢人をもとめ。周の文王は。太公望といふ賢人を。下よりゑらみ用ひ給ひしにより。共に天下をおだやかに。治め玉ふ例あり。扨俊人をさがし出し。
新字:聖君章第二それ上一人の君。聖人の徳を以。明らかに諸の。国の仕置を鑑たまふに。上は一人の天子。それより。国々の諸侯太夫。下々に至るまで。尊べき道そなはれり。さて天子は。万乗のあるじにてましませば。誰をか尊びたまふと云に。天をたつとみ。天につかふまつりたまひ。又地につかへ。中には先祖の神霊に。つかふまつりたまふ。かくのごとく。天子の御身にてさへ。尊びつかふまつる忠あれば。それを下々見ならひ法て。一天下あまねく。忠をつくさずと云事なし。されば君子の徳は風也。小人の徳は。草なりと云て。上の人の行を。下たるもの見ならひて。東風吹ば草葉の西になびき。北風には又千草の。南にのべふすがごとし。然れば一国の風俗の。よきも。あしきも。皆その上たる人の。行より発る。あながち。掟を。厳しくいはざれども。上の徳に下々はならへる事。たとへば陽春の気をうけては。いつとなく梅のほころび。鶯の囀。秋かぜに逢ては。草木の色付葉落るごとく。下の上に化する事。猶是におなじ。このゆへに上たる人は。善悪の本たるゆへに。深き淵にのぞみて。うすき氷をふめるごとくに。諸事行を太事にかけて。日々に心の鏡をとぎたて。下々のうちにも。賢なる人あればそれを愛しあつく禄をあたへて。国の仕置をまかせ。能ある人をば。それ〱の役に任ず。般の湯王は伊尹といふ賢人をもとめ。周の文王は。太公望といふ賢人を。下よりゑらみ用ひ給ひしにより。共に天下をおだやかに。治め玉ふ例あり。扨俊人をさがし出し。
書き下し
聖君章第二それ上一人の君。聖人の德を以。明らかに諸の。國の仕置を鑑たまふに。上は一人の天子。それより。國々の諸侯太夫。下々に至るまで。尊べき道そなはれり。さて天子は。萬乘のあるじにてましませば。誰をか尊びたまふと云に。天をたつとみ。天につかふまつりたまひ。又地につかへ。中には先祖の神靈に。つかふまつりたまふ。かくのごとく。天子の御身にてさへ。尊びつかふまつる忠あれば。それを下々見ならひ法て。一天下あまねく。忠をつくさずと云事なし。されば君子の德は風也。小人の德は。草なりと云て。上の人の行を。下たるもの見ならひて。東風吹ば草葉の西になびき。北風には又千草の。南にのべふすがごとし。然れば一國の風俗の。よきも。あしきも。皆その上たる人の。行より發る。あながち。掟を。嚴しくいはざれども。上の德に下々はならへる事。たとへば陽春の氣をうけては。いつとなく梅のほころび。鶯の囀。秋かぜに逢ては。草木の色付葉落るごとく。下の上に化する事。猶是におなじ。このゆへに上たる人は。善惡の本たるゆへに。深き淵にのぞみて。うすき氷をふめるごとくに。諸事行を太事にかけて。日々に心の鏡をとぎたて。下々のうちにも。賢なる人あればそれを愛しあつく祿をあたへて。國の仕置をまかせ。能ある人をば。それ〱の役に任ず。般の湯王は伊尹といふ賢人をもとめ。周の文王は。太公望といふ賢人を。下よりゑらみ用ひ給ひしにより。共に天下をおだやかに。治め玉ふ例あり。扨俊人をさがし出し。
現代語訳
聖君章第二。上に立つ一人の君が、聖人の徳をもって明らかに諸国の仕置きを見ておられると、上は一人の天子から、国々の諸侯、大夫、下々に至るまで、尊ぶべき道が備わっています。さて天子は万乗(兵車一万台)の主ですから、誰を尊ぶのかというと、天を尊び、天に仕え、また地に仕え、その中ほどでは先祖の神霊に仕えられます。このように天子の御身でさえ、尊び仕える忠があるので、それを下々が見習い、手本にして、天下があまねく忠を尽くさないことはありません。ですから「君子の徳は風であり、小人の徳は草である」と言うように、上の人の行いを下の者は見習います。東風が吹けば草葉は西になびき、北風ならば千草は南に伏せるようなものです。ですから一国の風俗のよいも悪いも、みな上の人の行いから起こります。必ずしも掟を厳しく言わなくても、上の徳に下々は習うのは、たとえば陽春の気を受けて、いつとなく梅がほころび、鶯がさえずり、秋風に会えば草木が色づき葉が落ちるように、下が上に化すのも同じです。このため上の人は善悪の本ですから、深い淵に臨んで薄い氷を踏むように、諸事の行いを大事にし、日々心の鏡を磨き立て、下々の中にも賢い人があればこれを愛して厚く禄を与え、国の仕置きを任せ、能のある人はそれぞれの役に任じます。殷の湯王は伊尹という賢人を求め、周の文王は太公望という賢人を下から選んで用いられたので、ともに天下を穏やかに治められた例があります。さて俊れた人を探し出し、
解説
この章句が説くこと
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