倭忠経 / 天地神明章第一・天地神明章 忠は身を修めることから
然るゆへに。先我身を一すじに。邪をまじへず行ひ。內外替らず。心も形も一つにして。眞實なる所は。是忠のはじめなり。扨その家に行ひ廣るは。忠の中なり。國天下にひろむるは。忠の終なり。かく廣大に。四海のはてまで。忠の行るゝそのもとは。我一身よりはじまれば。此誠の一念自然と天神地祇に感應ありて。其家かならず榮。佳名。天下にあらはれ。其身富貴なるべき事。天理の著ところなり。一家に忠行るれば。家內の父子兄弟童僕まで。和ぎむつまじく。たがひに道を守り。子としては父母に孝を盡し。父として子を慈しみ。弟は兄を敬ひ。兄は弟を愛し。下人は主人を敬ひ尊ぶ。この忠。一國に廣れば。一國平かに治る事かくのごとし。まことに下として。上を犯す心なくば。誰有て國を亂し。家を破るものあらんや。國家の亂るゝもとひは。下たる者上を欺。君をおろそかにおもふ一念より。つみかさねてかくのごとし。堯帝の帝舜に。道を相傳あるも。允執其中といふの四字なり。中といふも。忠といふも。文字はかはりて。心はひとつなり。如何となれば。中とは。物にまじはらぬ誠なれば。是すなはち忠なり。然れば君の爲に。一命を捨ばかりを。忠と心待ては。君の義かろし。忠の一念を以て。親に事れば。孝行の子たり。兄につかふれば。順なる弟たり。朋友にまじはれば。誠ある友たり。然れば治る世には。太平を致し。亂るゝ世には。君の爲に。身を抛。生をかへり見ず。一命を奉るも尤忠なり。右のごとく用る處。萬端に應ぜずといふ事なし。下劣のたとへなれ共。
新字:然るゆへに。先我身を一すじに。邪をまじへず行ひ。内外替らず。心も形も一つにして。真実なる所は。是忠のはじめなり。扨その家に行ひ広るは。忠の中なり。国天下にひろむるは。忠の終なり。かく広大に。四海のはてまで。忠の行るゝそのもとは。我一身よりはじまれば。此誠の一念自然と天神地祇に感応ありて。其家かならず栄。佳名。天下にあらはれ。其身富貴なるべき事。天理の著ところなり。一家に忠行るれば。家内の父子兄弟童僕まで。和ぎむつまじく。たがひに道を守り。子としては父母に孝を尽し。父として子を慈しみ。弟は兄を敬ひ。兄は弟を愛し。下人は主人を敬ひ尊ぶ。この忠。一国に広れば。一国平かに治る事かくのごとし。まことに下として。上を犯す心なくば。誰有て国を乱し。家を破るものあらんや。国家の乱るゝもとひは。下たる者上を欺。君をおろそかにおもふ一念より。つみかさねてかくのごとし。堯帝の帝舜に。道を相伝あるも。允執其中といふの四字なり。中といふも。忠といふも。文字はかはりて。心はひとつなり。如何となれば。中とは。物にまじはらぬ誠なれば。是すなはち忠なり。然れば君の為に。一命を捨ばかりを。忠と心待ては。君の義かろし。忠の一念を以て。親に事れば。孝行の子たり。兄につかふれば。順なる弟たり。朋友にまじはれば。誠ある友たり。然れば治る世には。太平を致し。乱るゝ世には。君の為に。身を抛。生をかへり見ず。一命を奉るも尤忠なり。右のごとく用る処。万端に応ぜずといふ事なし。下劣のたとへなれ共。
書き下し
然るゆへに。先我身を一すじに。邪をまじへず行ひ。內外替らず。心も形も一つにして。眞實なる所は。是忠のはじめなり。扨その家に行ひ廣るは。忠の中なり。國天下にひろむるは。忠の終なり。かく廣大に。四海のはてまで。忠の行るゝそのもとは。我一身よりはじまれば。此誠の一念自然と天神地祇に感應ありて。其家かならず榮。佳名。天下にあらはれ。其身富貴なるべき事。天理の著ところなり。一家に忠行るれば。家內の父子兄弟童僕まで。和ぎむつまじく。たがひに道を守り。子としては父母に孝を盡し。父として子を慈しみ。弟は兄を敬ひ。兄は弟を愛し。下人は主人を敬ひ尊ぶ。この忠。一國に廣れば。一國平かに治る事かくのごとし。まことに下として。上を犯す心なくば。誰有て國を亂し。家を破るものあらんや。國家の亂るゝもとひは。下たる者上を欺。君をおろそかにおもふ一念より。つみかさねてかくのごとし。堯帝の帝舜に。道を相傳あるも。允執其中といふの四字なり。中といふも。忠といふも。文字はかはりて。心はひとつなり。如何となれば。中とは。物にまじはらぬ誠なれば。是すなはち忠なり。然れば君の爲に。一命を捨ばかりを。忠と心待ては。君の義かろし。忠の一念を以て。親に事れば。孝行の子たり。兄につかふれば。順なる弟たり。朋友にまじはれば。誠ある友たり。然れば治る世には。太平を致し。亂るゝ世には。君の爲に。身を抛。生をかへり見ず。一命を奉るも尤忠なり。右のごとく用る處。萬端に應ぜずといふ事なし。下劣のたとへなれ共。
現代語訳
そのため、まず自分の身を一筋に、邪をまじえずに行い、内も外も変わらず、心も形も一つにして真実であることが、忠の始めです。その家に行いが広まるのは忠の中(なか)であり、国や天下に広めるのは忠の終わりです。このように広大に、四海の果てまで忠が行われる、その元は自分の一身から始まるので、この誠の一念は自然と天神地祇に感応し、その家は必ず栄え、よい名が天下に現れ、その身は富み貴くなるのは、天理が現れるところです。一家に忠が行われれば、家の中の父子兄弟や召使いまで、和らぎむつまじく、お互いに道を守り、子としては父母に孝を尽くし、父としては子を慈しみ、弟は兄を敬い、兄は弟を愛し、下人は主人を敬い尊びます。この忠が一国に広まれば、一国は平らかに治まることもこのとおりです。まことに、下の者が上を犯す心がなければ、誰が国を乱し家を破るでしょうか。国家が乱れる元は、下の者が上をあざむき、君をおろそかに思う一念が積み重なってこうなるのです。堯帝が舜帝に道を相伝されたのも、「允に其の中を執れ」という四字でした。中というのも忠というのも、文字は変わっても心は一つです。なぜなら、中とは物にまじわらない誠ですから、これがすなわち忠です。ですから君のために一命を捨てることだけを忠と心得るなら、君の義を軽くします。忠の一念をもって親に仕えれば孝行の子となり、兄に仕えれば従順な弟となり、朋友と交われば誠ある友となります。ですから治まる世には太平を致し、乱れる世には君のために身を投げ打ち、命を顧みず、一命を捧げるのも当然忠です。このように用いるところは、あらゆる場面に応じないことはありません。下劣なたとえですが、
解説
この章句が説くこと
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『墨子』兼愛下兼士の言は然らず、行いも亦た然らず。曰く、「吾れ聞く、天下に髙士為る者は、必ず其の友の身を為むること其の身を為むるが若くし、其の友の親を為むること其の親を為むるが若くして、然る後に以て天下に髙士為る可し」と。是の故に退きて其の友を睹るに、饑うれば則ち之に食わしめ、寒ければ則ち之に衣せしめ、疾病あれば之を侍養し、死喪あれば之を葬埋す。兼士の言は此くの若く、行いも此くの若し。若の二者は、言、相い非として行い相い反するか。常に若の二士をして、言は必ず信、行いは必ず果ならしめ、言行の合すること、猶お符節を合するがごとくならしめば、言いて行わざる無きなり。
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