倭忠経 / 天地神明章第一・天地神明章 忠は本心の中という教え
倭忠經卷上天地神明章第一むかし天下の。泰平に治りし時は。君と臣と。たがひに心を一つにして。へだてなく。めでたき政のあらはるゝは。忠の道なり。されば人の第一に行所。此忠より大なるはなし。國天下は云におよばず。はづかの一家の破れ亂るゝ處は。下として主人に忠の心なく。主從の不和なるより。發處歴然たり。さて忠は。中の義にて。本心のたゞ中を。忠とはいふなり。されば文字にも。中心とかき侍るなり。人間の本性には。高賤によらず。仁義禮智信といふ。五常をそなへたるゆへに。根本は心明らかにして。誰をしへざれども。君をうやまひ。忠を盡すべき心あれ共。形氣にひかるゝ私欲と云て。さま〱の惡念におほひくらまされて。根本の心をくらます事。たとへば。そのもと明なる。鏡のくもるがごとし。その本心の鏡を。とぎたてよとの爲に。聖人のさま〱のをしへを。後代に残給へり。然ればそのくもらぬ心を。忠といふなり。其忠を外に行時は。いかにも誠ある臣なり。凡誠といふは。せずしてかなはぬ所を。云なり。神といふも誠なり。天地も誠の一つよりあらはる。天の誠といふは。春夏秋冬のうつりかはり。日月のたがひにをしうつり。替る〱明らかに。晝夜をなす處なり。根本に誠なくば。いかで萬古より。今に至りてかくのごとく。一息の間もとゞまらず。四季折々の。うつりかはる事侍らんや。地の誠といふは。萬物のそれ〱に。生ずる處をいふなり。たとへば柳はみどり。花はくれなゐと。そめ出す處は。いにしへも今も。かはる事なし。終に柳の紅に匂。
新字:倭忠経巻上天地神明章第一むかし天下の。泰平に治りし時は。君と臣と。たがひに心を一つにして。へだてなく。めでたき政のあらはるゝは。忠の道なり。されば人の第一に行所。此忠より大なるはなし。国天下は云におよばず。はづかの一家の破れ乱るゝ処は。下として主人に忠の心なく。主従の不和なるより。発処歴然たり。さて忠は。中の義にて。本心のたゞ中を。忠とはいふなり。されば文字にも。中心とかき侍るなり。人間の本性には。高賤によらず。仁義礼智信といふ。五常をそなへたるゆへに。根本は心明らかにして。誰をしへざれども。君をうやまひ。忠を尽すべき心あれ共。形気にひかるゝ私欲と云て。さま〱の悪念におほひくらまされて。根本の心をくらます事。たとへば。そのもと明なる。鏡のくもるがごとし。その本心の鏡を。とぎたてよとの為に。聖人のさま〱のをしへを。後代に残給へり。然ればそのくもらぬ心を。忠といふなり。其忠を外に行時は。いかにも誠ある臣なり。凡誠といふは。せずしてかなはぬ所を。云なり。神といふも誠なり。天地も誠の一つよりあらはる。天の誠といふは。春夏秋冬のうつりかはり。日月のたがひにをしうつり。替る〱明らかに。昼夜をなす処なり。根本に誠なくば。いかで万古より。今に至りてかくのごとく。一息の間もとゞまらず。四季折々の。うつりかはる事侍らんや。地の誠といふは。万物のそれ〱に。生ずる処をいふなり。たとへば柳はみどり。花はくれなゐと。そめ出す処は。いにしへも今も。かはる事なし。終に柳の紅に匂。
書き下し
倭忠經卷上天地神明章第一むかし天下の。泰平に治りし時は。君と臣と。たがひに心を一つにして。へだてなく。めでたき政のあらはるゝは。忠の道なり。されば人の第一に行所。此忠より大なるはなし。國天下は云におよばず。はづかの一家の破れ亂るゝ處は。下として主人に忠の心なく。主從の不和なるより。發處歴然たり。さて忠は。中の義にて。本心のたゞ中を。忠とはいふなり。されば文字にも。中心とかき侍るなり。人間の本性には。高賤によらず。仁義禮智信といふ。五常をそなへたるゆへに。根本は心明らかにして。誰をしへざれども。君をうやまひ。忠を盡すべき心あれ共。形氣にひかるゝ私欲と云て。さま〱の惡念におほひくらまされて。根本の心をくらます事。たとへば。そのもと明なる。鏡のくもるがごとし。その本心の鏡を。とぎたてよとの爲に。聖人のさま〱のをしへを。後代に残給へり。然ればそのくもらぬ心を。忠といふなり。其忠を外に行時は。いかにも誠ある臣なり。凡誠といふは。せずしてかなはぬ所を。云なり。神といふも誠なり。天地も誠の一つよりあらはる。天の誠といふは。春夏秋冬のうつりかはり。日月のたがひにをしうつり。替る〱明らかに。晝夜をなす處なり。根本に誠なくば。いかで萬古より。今に至りてかくのごとく。一息の間もとゞまらず。四季折々の。うつりかはる事侍らんや。地の誠といふは。萬物のそれ〱に。生ずる處をいふなり。たとへば柳はみどり。花はくれなゐと。そめ出す處は。いにしへも今も。かはる事なし。終に柳の紅に匂。
現代語訳
むかし天下が泰平に治まっていたときは、君と臣がお互いに心を一つにして隔てなく、めでたい政治が現れました。それは忠の道によるものです。人が第一に行うべきことで、この忠より大きなものはありません。国や天下は言うまでもなく、わずかな一家が破れ乱れるのも、下の者が主人に忠の心がなく、主従が不和になることから始まったのは明らかです。さて忠とは「中」の意味で、本心のちょうど中心を忠というのです。だから文字にも「中心」と書くのです。人間の本性には、身分の高低に関わらず、仁義礼智信という五常が備わっているので、根本は心が明らかで、誰が教えなくても君を敬い、忠を尽くそうとする心があります。ところが形や気質に引かれる私欲というものがあり、さまざまな悪い思いに覆われてくらまされ、根本の心をくらませます。たとえるなら、もともと明るい鏡が曇るようなものです。その本心の鏡を磨き立てよということのために、聖人はさまざまな教えを後世に残されました。ですから、その曇らない心を忠というのです。その忠を外に行うとき、まことに誠のある臣となります。およそ誠とは「しないではすまないこと」をいいます。神というのも誠です。天地も誠の一つから現れます。天の誠とは、春夏秋冬の移り変わり、日月が互いに移り替わって明るく、昼夜をなすところです。根本に誠がなければ、どうして万古から今まで、このようにひと息の間もとどまらず、四季折々が移り変わることがあるでしょうか。地の誠とは、万物がそれぞれに生ずるところをいいます。たとえば柳は緑、花は紅と染め出すのは、昔も今も変わりません。ついに柳が紅に匂い、
解説
この章句が説くこと
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