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大和俗訓 / 巻之三・心術上

忠信は卽人の誠なり。誠といはずして、忠信とのたまへるは、心にいつはりなくするは忠なり。言と事とにいつはりなくするは信なり。誠は天理の自然を云ふ。忠信は人のつとめ行へる誠を云ふ。理は一にして、おのづからなると、つとむるとの別あり。程子も、人道は唯忠信にあり、誠ならざれば物なしといへり。君父につかふるにも、誠なければ忠孝にあらず、萬の事、誠なければ、さばかりの善事をなすといへど、僞となれば實事にあらず。つとめ行ふもあだごとなり。是無物なり。善事をつとめ行はば、名利のためにせずして、誠を以て行ふべし。是誠の善なり。

新字:忠信は即人の誠なり。誠といはずして、忠信とのたまへるは、心にいつはりなくするは忠なり。言と事とにいつはりなくするは信なり。誠は天理の自然を云ふ。忠信は人のつとめ行へる誠を云ふ。理は一にして、おのづからなると、つとむるとの別あり。程子も、人道は唯忠信にあり、誠ならざれば物なしといへり。君父につかふるにも、誠なければ忠孝にあらず、万の事、誠なければ、さばかりの善事をなすといへど、偽となれば実事にあらず。つとめ行ふもあだごとなり。是無物なり。善事をつとめ行はば、名利のためにせずして、誠を以て行ふべし。是誠の善なり。

書き下し

忠信は即人の誠なり。誠といはずして、忠信とのたまへるは、心にいつはりなくするは忠なり。言と事とにいつはりなくするは信なり。誠は天理の自然を云ふ。忠信は人のつとめ行へる誠を云ふ。理は一にして、おのづからなると、つとむるとの別あり。程子も、人道は唯忠信にあり、誠ならざれば物なしといへり。君父につかふるにも、誠なければ忠孝にあらず、万の事、誠なければ、さばかりの善事をなすといへど、偽となれば実事にあらず。つとめ行ふもあだごとなり。是無物なり。善事をつとめ行はば、名利のためにせずして、誠を以て行ふべし。是誠の善なり。

現代語訳

忠信とは、人の誠のことです。誠と言わずに忠信とおっしゃったのは、心に偽りがないようにするのが忠であり、言葉と行いに偽りがないようにするのが信だからです。誠は天理の自然をいいます。忠信は人が努めて行う誠をいいます。理は一つですが、自然であるものと、努めるものとの違いがあります。程子も「人の道はただ忠信にある。誠でなければ物はない」と言いました。君や父に仕えるにも、誠がなければ忠や孝ではありません。どんな事でも、誠がなければ、どれほどの善い事をしても、偽りとなれば本当の事ではありません。努めて行っても空しいことです。これが「物なし」ということです。善い事を努めて行うなら、名誉や利益のためにせず、誠をもって行うべきです。これが誠の善です。

解説

誠と忠信の関係を整理し、誠のない善事は実体のないものだと説く段です。心に偽りがないのが忠、言葉と行いに偽りがないのが信で、誠は天理の自然、忠信は人の努める誠だと区別します。『中庸』の「誠ならざれば物無し」を程子の言葉とあわせて引き、形だけの忠孝や善行は空しいと言います。評判や利益のための善行を戒める点は前の陰徳の段とも響き合います。見せるための親切や形だけのコンプライアンスが続かない理由を考える手がかりになります。

この章句が説くこと

誠忠信忠信善

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