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尉繚子 / 將理

夫能無私於一人,故萬物至而制之,萬物至而命之。君子不救囚於五步之外,雖鉤矢射之,弗追也。故善審囚之情,不待箠楚,而囚之情可畢矣。笞人之背,灼人之脇,束人之指,而訊囚之情,雖國士有不勝其酷,而自誣矣。今世諺云:「千金不死,百金不刑。」試聽臣之言,行臣之術,雖有堯、舜之智,不能闗一言;雖有萬金,不能用一銖。今夫決獄,小圄不下十數,中圄不下百數,大圄不下千數。十人聮百人之事,百人聮千人之事,千人聮萬人之事,所聮之者,親戚兄弟也,其次婚姻也,其次知識故人也。是農無不離田業,賈無不離肆宅,士大夫無不離官府。如此闗聮良民,皆囚之情也。兵法曰:「十萬之師出,日費千金。」今良民十萬,而聮於囹圄,上不能省,臣以為危也。

新字:夫能無私於一人,故万物至而制之,万物至而命之。君子不救囚於五歩之外,雖鉤矢射之,弗追也。故善審囚之情,不待箠楚,而囚之情可畢矣。笞人之背,灼人之脇,束人之指,而訊囚之情,雖国士有不勝其酷,而自誣矣。今世諺云:「千金不死,百金不刑。」試聴臣之言,行臣之術,雖有堯、舜之智,不能関一言;雖有万金,不能用一銖。今夫決獄,小圄不下十数,中圄不下百数,大圄不下千数。十人聮百人之事,百人聮千人之事,千人聮万人之事,所聮之者,親戚兄弟也,其次婚姻也,其次知識故人也。是農無不離田業,賈無不離肆宅,士大夫無不離官府。如此関聮良民,皆囚之情也。兵法曰:「十万之師出,日費千金。」今良民十万,而聮於囹圄,上不能省,臣以為危也。

書き下し

夫れ能く一人に私無し、故に万物至りて之を制し、万物至りて之に命ず。君子は囚を五歩の外に救はず、鉤矢之を射ると雖も、追はざるなり。故に善く囚の情を審らかにすれば、箠楚(すいそ)を待たずして、囚の情畢(つ)くすべし。人の背を笞(むち)うち、人の脇を灼き、人の指を束ねて、囚の情を訊すれば、国士と雖も其の酷に勝へずして、自ら誣(し)ふる有らん。今世の諺に云ふ、「千金は死せず、百金は刑せられず」と。試みに臣の言を聴き、臣の術を行はば、堯・舜の智有りと雖も、一言を関(あづか)る能はず。万金有りと雖も、一銖を用ふる能はず。今夫れ獄を決するに、小圄は十数を下らず、中圄は百数を下らず、大圄は千数を下らず。十人は百人の事に聯(つら)なり、百人は千人の事に聯なり、千人は万人の事に聯なる。聯なる所の者は、親戚兄弟なり、其の次は婚姻なり、其の次は知識故人なり。是れ農は田業を離れざる無く、賈は肆宅を離れざる無く、士大夫は官府を離れざる無し。此くの如く良民を関聯するは、皆囚の情なり。兵法に曰く、「十万の師出づれば、日に千金を費やす」と。今良民十万にして、囹圄に聯なるも、上省みる能はず、臣以為へらく危しと。

現代語訳

そもそも一人の者にも私情を持たない、だからこそあらゆる事がやって来てもこれを裁き、あらゆる事がやって来てもこれに命を下すことができる。君子は五歩より遠くにいる囚人を(私情で)救おうとせず、たとえ鉤で射た矢で射かけられても、追いかけて(仕返しをし)ない。だから囚人の実情をよく調べれば、鞭や杖を使うまでもなく、囚人の実情は残らずわかるものである。人の背を鞭打ち、人の脇腹を焼き、人の指を締め上げて、囚人の実情を問いただせば、たとえ国の勇士であってもその苦痛に耐えられず、自分から偽りの罪を認めてしまうだろう。今の世の諺に「千金あれば死罪にならず、百金あれば刑罰を受けない」という。試しに臣の言葉を聞き、臣の術を行ってくだされば、たとえ堯・舜(ぎょう・しゅん、古代の聖王)ほどの知恵があっても、一言も口を挟むことはできず、万金があっても、一銖(ごくわずかな金)も使うことはできない。いま裁判を行うと、小さな牢でも十数人を下らず、中くらいの牢では百人を下らず、大きな牢では千人を下らない。十人が百人の事件に連なり、百人が千人の事件に連なり、千人が一万人の事件に連なる。連座させられるのは、親戚や兄弟であり、その次は姻戚であり、その次は知人や古なじみである。こうして農民は田畑を離れざるを得ず、商人は店を離れざるを得ず、士大夫は役所を離れざるを得ない。このように善良な民を巻き込んでいるのは、すべて囚人の(取り調べの)ありさまによるのである。兵法に「十万の軍が出れば、一日に千金を費やす」とある。いま善良な民十万人が牢獄につながれているのに、上はそれを顧みることができない。臣はこれを危ういと思う。

解説

将理篇の全文で、将が裁きを行う際の心得を説く。一人にも私情を持たなければ、あらゆる事を公平に裁ける。囚人の実情はよく調べればわかるもので、鞭打ちや火責め、指締めで問いただせば、国士でも苦痛に耐えかねて偽りの自白をすると、拷問を明確に退けている。さらに「千金は死せず、百金は刑せられず」という賄賂がまかり通る世を批判し、自分の術なら聖王の口添えも万金も通用しないと言う。後半では、一つの事件が親戚や知人へと連なり、十万の良民が牢につながれて田畑や店や役所を離れる損失を、十万の軍の出費にたとえて危ぶむ。厳罰を説く尉繚子が冤罪と巻き添えを戒めていることは見落とせない。調査は公平に、処分は的を絞れという教えである。

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