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うひ山ぶみ / 注[イ]世に物まなびのすぢしなじな有て

その心をもて、漢某唐某といふべく、皇國の事は、内の事なれば、分て國の名をいふべきにはあらざるを、昔より世の中おしなべて、漢學をむねとするならひなるによりて、萬ヲの事をいふに、たゞかのもろこしを、みづからの國のごとく、内にして、皇國をば、返りて外にするは、ことのこゝろたがひて、いみしきひがこと也、此事は、山跡魂をかたむる一端なる故に、まづいふなり、かのしなじなある學びのすぢすぢ云々、これははじめにいへるしなじなの學問のことなるが、そのしなじな、いづれもよくしらではかなはざる事どもなり、そのうち律令は、皇朝の上代よりの制と、もろこしの國の制とを合せて、よきほどに定められたる物なれども、まづはもろこしによれることがちにして、皇國の古ヘの制をば、改められたる事多ければ、これを學ぶには、其心得あるべく、又此すぢのからぶみをよく明らめざれば、事ゆかぬ學問なれば、奥をきはめんとするには、から書の方に、力を用ふること多くて、こなたの學びのためには、功の費も多き也、

新字:その心をもて、漢某唐某といふべく、皇国の事は、内の事なれば、分て国の名をいふべきにはあらざるを、昔より世の中おしなべて、漢学をむねとするならひなるによりて、万ヲの事をいふに、たゞかのもろこしを、みづからの国のごとく、内にして、皇国をば、返りて外にするは、ことのこゝろたがひて、いみしきひがこと也、此事は、山跡魂をかたむる一端なる故に、まづいふなり、かのしなじなある学びのすぢすぢ云々、これははじめにいへるしなじなの学問のことなるが、そのしなじな、いづれもよくしらではかなはざる事どもなり、そのうち律令は、皇朝の上代よりの制と、もろこしの国の制とを合せて、よきほどに定められたる物なれども、まづはもろこしによれることがちにして、皇国の古ヘの制をば、改められたる事多ければ、これを学ぶには、其心得あるべく、又此すぢのからぶみをよく明らめざれば、事ゆかぬ学問なれば、奥をきはめんとするには、から書の方に、力を用ふること多くて、こなたの学びのためには、功の費も多き也、

書き下し

その心をもて、漢某唐某といふべく、皇国の事は、内の事なれば、分て国の名をいふべきにはあらざるを、昔より世の中おしなべて、漢学をむねとするならひなるによりて、万ヅの事をいふに、たゞかのもろこしを、みづからの国のごとく、内にして、皇国をば、返りて外にするは、ことのこゝろたがひて、いみじきひがこと也、此事は、山跡魂をかたむる一端なる故に、まづいふなり、かのしなじなある学びのすぢすぢ云々、これははじめにいへるしなじなの学問のことなるが、そのしなじな、いづれもよくしらではかなはざる事どもなり、そのうち律令は、皇朝の上代よりの制と、もろこしの国の制とを合せて、よきほどに定められたる物なれども、まづはもろこしによれることがちにして、皇国の古ヘの制をば、改められたる事多ければ、これを学ぶには、其心得あるべく、又此すぢのからぶみをよく明らめざれば、事ゆかぬ学問なれば、奥をきはめんとするには、から書の方に、力を用ふること多くて、こなたの学びのためには、功の費も多き也、

現代語訳

その心持ちで、漢の何々、唐の何々と言うべきであり、皇国の事は内の事なのだから、ことさら国の名を言うべきではない。ところが昔から世の中は一様に漢学を主とする慣わしであるために、あらゆる事を言うのに、ただあの中国を自分の国のように内側に置き、皇国をかえって外側に置くのは、事の道理に反した、はなはだしい誤りである。この事は大和魂を固める一端であるから、まず言っておくのである。『かのしなじなある学びのすぢすぢ』云々について。これは初めに述べたさまざまな学問のことであるが、そのいずれも、よく知っていなくては済まない事柄である。そのうち律令は、皇朝の上代からの制度と中国の制度とを合わせて、ほどよく定められたものではあるが、まずは中国に拠ったところが多く、皇国の古代の制度を改められた事が多いので、これを学ぶにはその心得があるべきである。またこの方面の漢籍をよく明らかにしなければ進まない学問なので、奥を極めようとするには漢籍のほうに力を用いることが多く、こちらの学びのためには労力の無駄も多いのである。

解説

前半は注[イ]の結びで、中国を「内」、自国を「外」とする転倒を「いみじきひがこと」と断じ、これを正すことが「山跡魂(やまとだましい)」を固める一端だと述べる。後半から注[ロ]に入り、本文で挙げた神学・有識の学などの諸分野を一つずつ吟味していく。最初は律令で、宣長はその価値を認めつつも、中国の制度に拠る部分が多く、古代日本の制度が改められてしまっていると指摘する。しかも律令を極めるには漢籍の研究が欠かせず、古学のためには回り道になるという。学ぶ価値のある分野でも、自分の目的に照らして労力の配分を考えよという実際的な助言である。自分が学んでいるものが、どこから来た枠組みでできているかを確かめているだろうか。

この章句が説くこと

律令漢意大和魂学問古学

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