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玉勝間 / 十四の巻 〓誠

もろこしの古書、ひたすら〓誠をのみこちたく云へるは、いといとうるさし。人は〓によりて善くなる者にあらず。もとより〓をまつものには有らぬを、餘りこちたくいましめ〓るから、中中に姦曲詐僞のみまさる事を知らず。周公旦、餘りにこちたく定めたる故に、周の末の亂をおこせり。戰國の頃の人の邪智ふかきは、みな周公が〓へたることなり。皇國の古書には、露ばかりもをしへがましき事見えず。此けぢめをよく考ふべし。〓誠の嚴なるを善き事と心得たるは愚なり。

新字:もろこしの古書、ひたすら〓誠をのみこちたく云へるは、いといとうるさし。人は〓によりて善くなる者にあらず。もとより〓をまつものには有らぬを、余りこちたくいましめ〓るから、中中に姦曲詐偽のみまさる事を知らず。周公旦、余りにこちたく定めたる故に、周の末の乱をおこせり。戦国の頃の人の邪智ふかきは、みな周公が〓へたることなり。皇国の古書には、露ばかりもをしへがましき事見えず。此けぢめをよく考ふべし。〓誠の厳なるを善き事と心得たるは愚なり。

書き下し

もろこしの古書、ひたすら教誡をのみこちたく云えるは、いといとうるさし。人は教えによりて善くなる者にあらず。もとより教えをまつものには有らぬを、余りこちたくいましめ教うるから、なかなかに姦曲詐偽のみまさる事を知らず。周公旦、余りにこちたく定めたる故に、周の末の乱をおこせり。戦国の頃の人の邪智ふかきは、みな周公が教えたることなり。皇国の古書には、露ばかりもおしえがましき事見えず。このけじめをよく考うべし。教誡の厳なるを善き事と心得たるは愚かなり。

現代語訳

中国の古い書物が、ひたすら教えと戒めばかりをくどくどと言っているのは、たいへんわずらわしい。人は教えによって善くなるものではない。もともと教えを必要とするものではないのに、あまりにくどく戒め教えるから、かえって邪悪やいつわりばかりが増えることを知らない。周公旦があまりにくどく定めたために、周の末の乱を起こしたのである。戦国時代の人々の悪知恵が深かったのは、みな周公が教えたことである。我が国の古い書物には、少しも教えがましいことは見えない。この違いをよく考えるべきである。教えと戒めが厳しいのを善いことと心得ているのは愚かである。

解説

宣長の漢意批判の要点の一つである「教え」への不信を述べた段である。中国の古書は教えと戒めばかりをくどくどと説くが、人は教えによって善くなるものではなく、厳しく教え戒めるほど、かえって人は裏をかいて悪知恵を働かせるようになる、と宣長は言う。周公旦が礼の制度を細かく定めたことが周末の乱を招き、戦国時代の人々の悪知恵もその結果だとまで断じる。宣長は『直毘霊』でも、古の日本には道という言挙げがなく、それでも国はよく治まっていたと説いた。規則を増やすほど抜け道を探す人が増えるという指摘には、今の組織運営にも通じる鋭さがある。一方で、教えを全く否定することの危うさも、時代の言葉として意識しておきたい。

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