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玉勝間 / 十二の巻 物しり人もののことわりを論ずるやう

世のものしり人、人の身のうへ、世の中のことわりなどを、さまざま心高く、いとかしこげには論へども。と云ふもかく云ふも、皆からぶみの趣きにて、その垣内を出る事あたはざるは、いかにぞや。

書き下し

世のものしり人、人の身のうえ、世の中のことわりなどを、さまざま心高く、いとかしこげには論えども、とかく云うもかく云うも、皆からぶみの趣きにて、その垣内を出ずる事あたわざるは、いかにぞや。

現代語訳

世の物知りたちは、人の身の上のことや世の中の道理などを、あれこれと志高く、いかにも賢そうに論じるけれども、ああ言うのもこう言うのも、みな漢籍の趣旨どおりで、その垣根の内を一歩も出ることができないのは、どうしたことか。

解説

世の物知りの議論が、結局は漢籍の枠を出ないことを批判した短い段である。人の生き方や世の道理を賢げに論じても、その考えの型はすべて儒学などの中国の書物から借りたもので、その垣根の内側をぐるぐる回っているにすぎない、と宣長は言う。これは漢意(からごころ)批判の要点を一言で言い当てたものである。宣長のいう漢意とは、中国の書物を読むことそのものではなく、物事を理屈で割り切り、善悪を論じ立てる思考の癖が、知らず知らず身に染みついていることを指す。自分で考えているつもりでも、実は借り物の枠組みで考えているのではないか、という問いである。宣長の主張は当時の儒学への対抗から出たものだが、無自覚な思考の枠への警告として、今も鋭さを失っていない。

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