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玉勝間 / 十四の巻 から人の語かしこく云ひとれること

昔より、世世に、もろこし人の云へる、名高き語どもを思ふに、唯だかしこく物にたとへもし、又ただにても、おかしく云ひとれるのみにこそあれ。その心は、學文もせぬ常の人も、心かしこきは、大かた皆もとよりよく心得たる事にて、さしも心に及ばずめづらしき事は無し。されどよく云ひとれるがかしこさに、げにさこそは有れと、みな人は感ずるなり。

新字:昔より、世世に、もろこし人の云へる、名高き語どもを思ふに、唯だかしこく物にたとへもし、又ただにても、おかしく云ひとれるのみにこそあれ。その心は、学文もせぬ常の人も、心かしこきは、大かた皆もとよりよく心得たる事にて、さしも心に及ばずめづらしき事は無し。されどよく云ひとれるがかしこさに、げにさこそは有れと、みな人は感ずるなり。

書き下し

昔より、世々に、もろこし人の云える、名高き語どもを思うに、ただかしこく物にたとえもし、又ただにても、おかしく云いとれるのみにこそあれ。その心は、学文もせぬ常の人も、心かしこきは、大かた皆もとよりよく心得たる事にて、さしも心に及ばずめずらしき事は無し。されどよく云いとれるがかしこさに、げにさこそは有れと、みな人は感ずるなり。

現代語訳

昔から代々、中国人の言った名高い言葉を思うと、ただ上手に物にたとえたり、またそのままでも趣深く言い表したりしているだけである。その意味は、学問もしない普通の人でも、心の賢い者なら、おおよそみなもともとよく分かっていることで、それほど思いも及ばない珍しいことはない。けれども、よく言い表している巧みさに、なるほどそのとおりだと、誰もが感心するのである。

解説

中国の名言・格言がありがたがられる理由を、冷静に分析した段である。宣長によれば、名高い言葉の中身は、学問のない人でも賢い者なら誰でも心得ていることで、特別に深い真理ではない。人々が感心するのは、巧みなたとえや言い回しによって、うまく言い表されているからだというのである。これは儒学の経典や格言を真理の宝庫として崇める儒者への批判であると同時に、言葉の力についての鋭い観察でもある。歌の言葉の働きを深く考えた宣長らしく、言い方ひとつで人の心の受け取り方が変わることをよく知っていた。名言に出会ったとき、その内容に感心しているのか、言い回しに感心しているのかを分けて考えることは、今も言葉に流されないための知恵である。

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