玉勝間 / 十四の巻 巻頭つらつら椿十四
萬葉集の一の卷に、巨勢山のつらつら椿つらつらに、と云ふ歌を思ひ出て、われも詠めるは、世中をつらつら椿つらつらに思へばおもふことぞおほかるさるはわが身の上のうれへにもあらず。なべての世のたたずまひ、人のありさまの、善き惡しき事につけて、おふけなく思ふすぢの、心にこめ難きは、をりをり此卷卷にも、もらせるふしも多かれど、猶云ひても云ひても、つきすべくも有らずなむ。
新字:万葉集の一の巻に、巨勢山のつらつら椿つらつらに、と云ふ歌を思ひ出て、われも詠めるは、世中をつらつら椿つらつらに思へばおもふことぞおほかるさるはわが身の上のうれへにもあらず。なべての世のたたずまひ、人のありさまの、善き悪しき事につけて、おふけなく思ふすぢの、心にこめ難きは、をりをり此巻巻にも、もらせるふしも多かれど、猶云ひても云ひても、つきすべくも有らずなむ。
書き下し
万葉集の一の巻に、巨勢山のつらつら椿つらつらに、と云う歌を思い出でて、われも詠めるは、世の中をつらつら椿つらつらに思えばおもうことぞおおかる さるはわが身の上のうれえにもあらず。なべての世のたたずまい、人のありさまの、善き悪しき事につけて、おおけなく思うすじの、心にこめ難きは、おりおりこの巻々にも、もらせるふしも多かれど、なお云いても云いても、つきすべくも有らずなむ。
現代語訳
『万葉集』巻一に「巨勢山のつらつら椿、つらつらに」という歌があるのを思い出して、私も詠んだ歌は、「世の中をつらつら椿の名のように、つらつら(つくづく)と思えば、思うことの多いことだ」。それは我が身の上の憂いというのではない。世間一般のありさまや人の様子の、善いこと悪いことにつけて、身のほどもわきまえず思う筋のことで、心に収めておけないものは、折々この巻々にも漏らしてきた箇所が多いけれど、それでもなお、言っても言っても尽きそうにない。
解説
関連する章句
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『玉勝間』十の巻 巻頭(山菅十)はてもなし云うべき事は云えど云えどなおやますげの乱れあいつつ。この野べのすさびよ、いとかくはかなき手習いを、ものものしく、巻ごとに名つけて、歌をさえに添えたるは、我ながらだに、あやしく覚ゆるを、おのずからも見む人は、まして如何にことごとしと思うらん。さるは初めの巻のはしに、ゆくりかに歌一つ物して、巻の名つけつるままに、つぎつぎも一つ二つ然かせしが、おのずから習いになりて、必ずさらでは得あらぬわざの如なりもてきぬるを、今さらにたがえむも、さすがにて、例のごと物するになむ。そもそのおりおり、思いうるままに、詠み出でもし、あるいは他事に詠みたるが有るをも、取り出でなどするを、につかわしく覚ゆるも、無きおりなど、今書かむとすとては、筆とりながら、思いめぐらすに、例の口おそさは、とみにも出でこで、しりくわえ勝ちなるも、あじきなく物くるおしきわざになん。この山菅も、かろうじてほり出でたる、さる歌のきたなげさよ。
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『玉勝間』四の巻 巻頭(わすれ草四)からぶみの中に、とみに尋ぬべき事の有りて、思いめぐらすに、そのふみとばかりは、ほのかに覚えながら、いづれの巻のあたりと云うこと、さらにおぼえねば、ただ心あてに、ここかしこと尋ぬれど、え見いでず。さりとていとあまた有る巻々を、初めよりたつねもて行かむには、いみしくいとまいりぬべければ、さもえ物せず。ついに空しくて止みぬるが、いと口惜しきままに、思い続けける。ふみ見つる跡もなつ野の忘草老いてはいとどしげり添いつつ。もとより物覚ゆる事、いと乏しかりけるを、このちかき年頃となりては、いとど何事も、ただ今見聞きつるをだに、やがて忘れがちなるは、いといと云うかい無きわざになん。
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『玉勝間』十二の巻 巻頭(山ふき十二)われとひとしき人し無ければ、と云いける、人も有りけれどよしやさばれおのれは、思うこと云わではやまじやまぶきもさればぞ花の露けかるらむ
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『玉勝間』七の巻 巻頭(ふぢなみ七)ある所にて、藤の花のいと面白く咲けりけるを見て、あかず覚えければ、藤の花わが玉のをも松が枝にまつわれてみむ千世の春までと詠みたるを、そのまたの日、この巻を書くとて、例の名づけつ。かえらん人にと云う歌を思い出でて、
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『玉勝間』九の巻 神をなほざりに思ひ奉る世のならひをかなしむ事そもそも宣長、かかるすじの事を、かえすがえす云い出づる、人はうるさしとも思うらめど、この事のうれたさの、明け暮れ心に忘らるる間も無く覚ゆるから、筆だにとれば、書きいでまほしくてなん。治まれる御代のしるしを千木たかく神のやしろに見るよしもがな
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『玉勝間』一の巻 巻頭(初若菜一)この言草よ、何くれと数多く積りぬるを、いとくだくだしけれど、やり捨てむもさすがにて、書き集めむとするを、きょうはむ月十八日、子の日なれば、よし有りておぼゆるままに、まづこの巻の名、かく物しつ。次々のも、またその折々思い寄らむままに、何ともかとも付けてむとす。かたみとは残れ野沢の水ぐきの浅くみじかき若菜なりとも
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