玉勝間 / 十三の巻 しののめの説
同抄に、しののめ、能因が注に云ク。明けはなるる程の空の雲の、しののめに似たるなりと有、しののめに似たりと云ふしののめは、何物を云へるにか。
書き下し
同抄に、しののめ、能因が注に云く。明けはなるる程の空の雲の、しののめに似たるなりと有り、しののめに似たりと云うしののめは、何物を云えるにか。
現代語訳
同じ『綺語抄』に、「しののめ」について、能因の注に言うには、「夜が明けはなれるころの空の雲が、しののめに似ているのである」とある。「しののめに似ている」というその「しののめ」は、何を言っているのだろうか。
解説
明け方を意味する歌語「しののめ」について、能因法師が「明け方の空の雲がしののめに似ている」と注したことを取り上げ、それでは似ているとされる元の「しののめ」とは何なのかと問うた短い段である。語を説明するのに同じ語を使っては、説明にならない。宣長は、能因の注の循環を鋭く突いている。「しののめ」の語源については、篠竹で編んだ明かり取りの目「篠の目」から来たとする説などがあるが、確かではない。能因は平安時代の歌人で歌枕の知識で知られたが、宣長は名のある人の説でも、言葉の説明として成り立っているかを冷静に吟味する。当たり前に分かったつもりになっている説明を疑う目が、この短い問いに表れている。
関連する章句
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『玉勝間』十三の巻 しづり綺語抄に、「おく山のしずりのしたの袖なれや、思いの外にぬれぬと思えば、四条大納言歌枕に、木にふりたる雪の、落つるを、しずりと云うなり。
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『玉勝間』十の巻 しをり六帖に、山の題の歌に、「しおりして行かまし物をあいづ山いるよりまどう道と知りせば。しおりと云う物、これに見えたるなどや、始めならむ。なお古く有るか、覚えずなん。
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『玉勝間』二の巻 歌書の註を抄となづくる事昔より、歌ぶみの註を抄と云いて、その名をも多く某抄とつくる。抄の字は、註釈にはあたらざれども、もろこしよりして、仏ぶみには、その書のさまにかかわらで、記とも集とも抄とも名づけたる、つねの事なれば、歌ぶみの註を抄と云うも、もと仏書の名どもにならえる物なるべし。
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『玉勝間』五の巻 しのぶもぢずり又垣衣草のかたならんには、かの古今の歌、軒に生うるなどこそ詠むべけれ、みちのくのと詠めるは、何のよしぞや。かの国に信夫の郡と云うが有ればとて、さる遠き国の名をとり出でて、よしも無き垣衣草の枕詞には、置くべき物かは。又乱るるよしを云わむに、しのぶ草は、いとも似つかわしからず。かの草のさまは、さ云うばかり乱れたる物にはあらず。それも摺りたる形は、乱れても有るべけれど、摺りたるにつけて乱れたらんは、いずれの物のかたにても、同じ事なるべし。いたく物よりことに乱れたる形ならではかなわず。又垣衣は、とり分けて摺り染などにすべき物にも有らざるをや。さて又かの信夫の郡より出ずと云う事を破りて、布など、染めたるを諸国より貢ることは、古え見えずと云われたるも、たがえり。延喜の大蔵、内蔵などの式にも、諸国所貢の染布の色々など見えたるをや。すり衣は、おのが家々にてこそ摺りたれ、と云わるれども、さりとて、外より摺りていだす事も、などか無からん。国々より出でて名ある物を、めで用うる事は、今も昔も同じ事なり。さて信夫の郡に、石の有りしにて摺れりと云うは、いかが有りけむ。
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『玉勝間』八の巻 枕詞天又月日など云わむとて、まずひさかたのと云い、山と云わむとて、まずあしひきの、と云う類いの詞を、世に枕詞と云う。此名、古くは聞も及ばず、中昔の末より云う事なめり。是れを枕としも云うは、かしらに置く故と、誰れも思うめれど、さには有らず。枕はかしらに置く物には有らず、かしらを支ゆる物にこそ有れ、さるはかしらのみにも有らず、すべて物のうきて、間のあきたる所を、支ゆる物を、何にもまくらとは云えば、名所を歌枕と云うも、一句言葉のたらで、明たる所に置く由の名と聞ゆれば、枕詞と云うも、そのじょうにてぞ、云いそめけんかし。梅の花それとも見えず久方の云云、しのぶれど恋しき時はあしひきの云云などの如し。そもそも是等は、一つのさまにこそ有れ、なべて然るには有らざるを、後の世人の心にて、さる一かたにつきてぞ、名づけたりけむ。なべてはかしらに置く詞なれば、吾師の冠詞と云われたるぞ、ことわりかないては有ける。然は有れども、今はあまねく、枕詞と云いならいたれば、ことわりは如何にまれ、さても有りぬべくこそ。
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『玉勝間』九の巻 当の字のつかひざま又此を今のと云ふ事そもそもかの今の歌はと云えるたぐいを思うに、此歌はと云いては、別にそこに引きたる歌のことに、まがうおりなどの有れば、そを分けむ為などには、今注する歌の事をば、然か云わむも、悪しき事にはあらずなん。
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