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玉勝間 / 十三の巻 遠江国より大神宮に神御衣を織て奉る事

遠江國人、內山、眞龍が云へるは、かの國の濱名ノ郡神戶ノ〓岡本村と云ふに。機殿有て、年每に、四月と九月と、神御衣を織りて、伊勢ノ內宮に奉る。そのはた殿は、かの村に、神氏目大夫と云ふ者、世世相傳へて、年ごとに新しく造る、萱葺の屋なり。神庫もあり。ふるめきたる造りざまなり。神御衣は、年ごとに、三河ノ國の大野村と云ふより、生糸を、此岡本村におくり奉るを、件の機殿にて織て奉る。和たへなり、と云き。

新字:遠江国人、内山、真竜が云へるは、かの国の浜名ノ郡神戸ノ〓岡本村と云ふに。機殿有て、年毎に、四月と九月と、神御衣を織りて、伊勢ノ内宮に奉る。そのはた殿は、かの村に、神氏目大夫と云ふ者、世世相伝へて、年ごとに新しく造る、萱葺の屋なり。神庫もあり。ふるめきたる造りざまなり。神御衣は、年ごとに、三河ノ国の大野村と云ふより、生糸を、此岡本村におくり奉るを、件の機殿にて織て奉る。和たへなり、と云き。

書き下し

遠江国人、内山真龍が云えるは、かの国の浜名の郡神戸の〓岡本村と云うに。機殿有りて、年毎に、四月と九月と、神御衣を織りて、伊勢の内宮に奉る。そのはた殿は、かの村に、神氏目大夫と云う者、世世相伝えて、年ごとに新しく造る、萱葺の屋なり。神庫もあり。ふるめきたる造りざまなり。神御衣は、年ごとに、三河の国の大野村と云うより、生糸を、この岡本村におくり奉るを、件の機殿にて織りて奉る。和たえなり、と云いき。

現代語訳

遠江国の人内山真龍が言うには、「その国の浜名郡神戸の某岡本村という所に機殿があって、毎年四月と九月に神御衣を織って、伊勢の内宮に奉納する。その機殿は、その村に住む神氏目大夫という者が代々受け継いで、年ごとに新しく造る萱葺きの建物である。神庫もある。古めかしい造りである。神御衣は、毎年三河国の大野村という所から生糸をこの岡本村に送ってくるのを、その機殿で織って奉納する。和妙(にぎたえ、絹の布)である」と言った。

解説

遠江の国学者内山真龍から聞いた、浜名郡の神戸で伊勢神宮に奉る神御衣を織っている話を書き留めた段である。伊勢神宮では毎年春と秋に神御衣祭が行われ、神に絹の和妙と麻の荒妙を奉る。この地では、三河から送られた生糸を代々の家が守る萱葺きの機殿で織って内宮に納めていたという。遠江の浜名神戸は古代に神宮に奉仕した神領で、今も初生衣神社として伝えが残る。内山真龍は賀茂真淵に学んだ遠江の国学者で、宣長とも交流があった。古代からの神事が地方で今も続いていることは、宣長にとって古の道が絶えずに生きている証であった。変わらずに受け継がれる営みの尊さを伝える記録である。

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