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玉勝間 / 十三の巻 貞和四年に西ノ海に沈みし宝劒出来れりと云ふさだの事

百六十餘年の間、治世有德の御世にだにも、出ざりし寶劔の、今かかる亂世にあたりて、出ッベき理なく候と、委く奏し申されければ、上皇げにもとや思しめされけん、かの劔をば、平野ノ社の神主兼員に預けられけるとぞと、此事太平記廿五の卷に、くはしく記せり。まことに資明ノ卿直義兼員圓成ら、あひはかりて、かまへ出たる、いつはり事とこそ聞ゆれ。

新字:百六十余年の間、治世有徳の御世にだにも、出ざりし宝剣の、今かかる乱世にあたりて、出ッベき理なく候と、委く奏し申されければ、上皇げにもとや思しめされけん、かの剣をば、平野ノ社の神主兼員に預けられけるとぞと、此事太平記廿五の巻に、くはしく記せり。まことに資明ノ卿直義兼員円成ら、あひはかりて、かまへ出たる、いつはり事とこそ聞ゆれ。

書き下し

百六十余年の間、治世有徳の御世にだにも、出でざりし宝剣の、今かかる乱世にあたりて、出ずべき理なく候と、委しく奏し申されければ、上皇げにもとや思しめされけん、かの剣をば、平野の社の神主兼員に預けられけるとぞと、この事太平記廿五の巻に、くわしく記せり。まことに資明の卿直義兼員円成ら、あいはかりて、かまえ出だしたる、いつわり事とこそ聞こゆれ。

現代語訳

百六十余年の間、よく治まった徳ある御代にさえ現れなかった宝剣が、今このような乱世にあたって現れるはずの道理はございません」と詳しく奏上されたので、上皇はもっともだとお思いになったのであろうか、その剣を平野社の神主兼員に預けられたということだ、と、このことは『太平記』巻二十五に詳しく記している。まことに資明卿・直義・兼員・円成らが示し合わせてこしらえ出した偽りごとと思われる。

解説

貞和の宝剣騒動の結末である。勧修寺経顕は、世がよく治まっていた時代にさえ出なかった宝剣が、この乱世に出てくる道理はないと奏上し、上皇も納得して、剣は平野社の神主に預けられたという。宣長はこれを受けて、資明・直義・兼員・円成らが示し合わせてこしらえた偽りだと断じている。南北朝の対立の中、北朝の側にとって三種の神器の欠けは正統性にかかわる弱みであり、宝剣の発見はそれを補う意味を持ちえた。宣長は政治的な背景までは述べないが、関わった人物を名指しすることで、誰が得をするかを見抜いている。経顕の、理屈に照らして話の不自然さを突く態度は、宣長自身の考証の姿勢とも重なっている。

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