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玉勝間 / 十二の巻 きがへ

同ものがたりに、きがへとり寄せて、きかへてと有り。こは着替に設けたる衣の由なり。今の世に衣服すべてきがへと言ふなるは、これより轉りたるなり。

新字:同ものがたりに、きがへとり寄せて、きかへてと有り。こは着替に設けたる衣の由なり。今の世に衣服すべてきがへと言ふなるは、これより転りたるなり。

書き下し

同じものがたりに、きがえとり寄せて、きかえてと有り。こは着替えに設けたる衣の由なり。今の世に衣服すべてきがえと言うなるは、これより転りたるなり。

現代語訳

同じ物語(宇治拾遺物語)に「着替えを取り寄せて、着替えて」とある。これは着替え用に用意した衣という意味である。今の世で衣服すべてを「きがえ」と言うのは、これから転じたものである。

解説

「きがえ」という言葉の意味の移り変わりを記した短い段である。宇治拾遺物語で「きがえ」と言うのは、着替えるために用意しておいた衣、つまり替えの着物のことである。ところが宣長の時代には、衣服一般を指して「きがえ」と言うようになっていた。もとは特定の用途の衣を指した言葉が、意味を広げて衣服全体の呼び名になったというのである。言葉の意味が広がったり狭まったりするのは、どの時代にも起こることで、宣長はその具体例を一つずつ集めていた。今の私たちが「着替え」と言えば再び替えの衣服の意味で使うことを思えば、言葉は行きつ戻りつしながら生きていると言える。今の言葉を古い用例と照らす宣長の習慣がここにも出ている。

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