玉勝間 / 十二の巻 幅と云ふ事
堀川院百首に、「ぬぎかけしぬしは誰れとも知らねどもひとのにたてる藤袴かな、一野に一幅をかねたり。
書き下し
堀川院百首に、ぬぎかけしぬしは誰とも知らねどもひとのにたてる藤袴かな、一野に一幅をかねたり。
現代語訳
『堀河院百首』に「脱いで掛けた主が誰とも知らないけれど、野に一面に立っている藤袴であることよ」という歌がある。「ひとの」に、「一野(ひとの)」と「一幅(ひとの)」とを兼ねている。
解説
布の幅を数える「の(幅)」という語の古い用例を、歌の掛詞から示した短い段である。堀河天皇の時代に歌人たちが詠んだ堀河院百首の一首は、野に咲く藤袴を、誰かが脱いで掛けた袴に見立てる。その「ひとの」に、野一面を言う「一野」と、布一幅を言う「一幅」とが掛けてある。袴という衣の縁で、布の幅の単位が響くのである。一幅(ひとの)は今も和裁や風呂敷の寸法を言うときに「二幅(ふたの)」などと使われる言葉だ。宣長は掛詞を解いてみせることで、その語が平安末期にはすでに生きた言葉であったことを確かめている。わずか一行の書き付けだが、歌を読む楽しみと言葉を調べる楽しみが一つになっている。掛詞は、昔の人がどの言葉を身近に感じていたかを映す鏡でもある。
関連する章句
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