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玉勝間 / 十一の巻 封ノ字を書べきところに〆と書く事

これも北山抄に、封ノ字のかはりに、近代は忽引墨と云ふ事有。

書き下し

これも北山抄に、封の字のかわりに、近代は忽ち墨を引くと云う事有り。

現代語訳

これも『北山抄』に、「封」の字の代わりに、近ごろはさっと墨を引くということがある、とある。

解説

手紙の封じ目に「封」の字を書く代わりに墨を一筆引く、という習わしの古さを示した短い段である。題に「〆」とあるとおり、宣長の時代にも封書の綴じ目に「〆」と書く習慣があり、今もその名残が残っている。その起こりは、平安時代の中頃にすでに、正式な「封」の字を略して墨を引くだけで済ますことがあったところにあるらしい、と宣長は『北山抄』の記事から推している。藤原公任がこれを「近代は」と書いているのは、当時すでに新しい略式として意識されていたことを示す。宣長は、日常の小さな習慣が千年近く前にまでさかのぼることを確かめるのを好んだ。今ふだん何気なく書いている記号にも、長い歴史が隠れていることを教えてくれる。

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