玉勝間 / 十一の巻 かるめる
同書に、かるめると云ふ字の事、大神ノ景範家記に載之、上下と書り。うちまかせて人不知事なり。可秘藏之、甲乙とも書けり。
新字:同書に、かるめると云ふ字の事、大神ノ景範家記に載之、上下と書り。うちまかせて人不知事なり。可秘蔵之、甲乙とも書けり。
書き下し
同書に、かるめると云う字の事、大神の景範が家記にこれを載す、上下と書けり。うちまかせて人知らざる事なり。これを秘蔵すべし、甲乙とも書けり。
現代語訳
同じ書に、「かるめる」という字のことは、大神景範の家の記録にこれを載せていて、「上下」と書いている。普通には人の知らないことである。これは秘蔵すべきである。「甲乙」とも書いている、とある。
解説
雅楽の笛などで音の高低を言う「かる」「める」という語の表記について、『体源抄』の説を引いた短い段である。「かり」は音を高く、「めり」は音を低くすることで、今も尺八などで「メリ・カリ」という言葉が使われている。それを漢字で「上下」と書き、また「甲乙」とも書くというのが、笛の家である大神氏の秘伝であったという。今日「めりはり」という言葉もこの「めりかり」から出たとする説がある。宣長は言葉の成り立ちや書き表し方に強い関心を持っており、楽人の家に秘されていた用語を書き留めた。秘伝として守られてきた小さな知識も、書き残されなければ失われる。専門の世界の言葉が、いつのまにか日常の言葉に溶け込んでいることに気づかせる段である。
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