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玉勝間 / 十の巻 出雲国なる黄泉の穴

猶ゆきかひの道の程の事どもまで、こまかに記したるを、見るには猶さだかならず覺えて、ここは如何にと猶問ひ聞かまほしき所も多かれど、しばらく本にしたがひて、その趣をとりて、事をつづめて、よき程にここには記るせるなり。さて此奧岡村よみの穴のあたりを、神門ノ郡ならむと記るしたれど、必ず出雲ノ郡なるべし。さて又風土記に、宇賀ノ郷の所に、黃泉之穴と云ふ所の見えたるは、同郡の內には有れども、磯べにて、窟の內に在る由なれば、この所なるべし。

新字:猶ゆきかひの道の程の事どもまで、こまかに記したるを、見るには猶さだかならず覚えて、ここは如何にと猶問ひ聞かまほしき所も多かれど、しばらく本にしたがひて、その趣をとりて、事をつづめて、よき程にここには記るせるなり。さて此奥岡村よみの穴のあたりを、神門ノ郡ならむと記るしたれど、必ず出雲ノ郡なるべし。さて又風土記に、宇賀ノ郷の所に、黄泉之穴と云ふ所の見えたるは、同郡の内には有れども、磯べにて、窟の内に在る由なれば、この所なるべし。

書き下し

なおゆきかいの道の程の事どもまで、こまかに記したるを、見るにはなおさだかならず覚えて、ここは如何にとなお問い聞かまほしき所も多かれど、しばらく本にしたがいて、その趣をとりて、事をつづめて、よき程にここには記せるなり。さてこの奥岡村よみの穴のあたりを、神門の郡ならむと記したれど、必ず出雲の郡なるべし。さてまた風土記に、宇賀の郷の所に、黄泉之穴と云う所の見えたるは、同郡の内には有れども、磯べにて、窟の内に在る由なれば、この所なるべし。

現代語訳

さらに往来の道のりのことまで細かく記してあるが、読んでもやはりはっきりしないように思われて、ここはどうなのかとさらに問い聞きたい所も多いけれども、ひとまず元の記録に従い、その趣旨を取って、事を縮めて、ほどよくここには記したのである。さてこの奥岡村の黄泉の穴のあたりを、神門郡であろうと記してあるが、必ず出雲郡であろう。さてまた出雲風土記の宇賀郷の条に黄泉之穴という所が見えるのは、同じ郡の内にはあるけれども、磯辺で、岩屋の中にあるということなので、この所なのであろう。

解説

探訪記の締めくくりで、宣長が記録をどう扱ったかを明かす段である。秀満の報告は往来の道のりまで細かく書いてあったが、読んでも分からない所があり、問い返したい点も多かった。それでもひとまず原文に従い、趣旨を取って程よく縮めた、と宣長は書く。要約したことを断る誠実さがある。そのうえで、報告が穴の所在を神門郡としたのを、地理から出雲郡のはずだと正す。さらに出雲風土記の宇賀郷の条に見える黄泉之穴との関係に触れるが、風土記のそれは磯辺の岩屋の中にあるとされ、山の中腹のこの穴とは様子が違う。古伝の地を現地の報告と文献の両面から確かめようとする一連の段は、実地調査と文献考証を結びつける宣長の学問の広がりを示している。

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