導師導古典を学びたいすべての人に

玉勝間 / 十の巻 物をときさとす事

すべて物の色形、又事のこころを、云ひさとすに、いかに委しく云ひても、猶さだかにさとり難きこと、常に有るわざなり。そはその同じたぐひの物をあげて、其の色に同じきぞ、某のかたちの如くなるぞと云ひ、ことの意をさとすには、その例を一つ二つ引出れば、言多からで、よくわかるるものなり。

書き下し

すべて物の色形、また事のこころを、云いさとすに、いかに委しく云いても、なおさだかにさとり難きこと、常に有るわざなり。そはその同じたぐいの物をあげて、その色に同じきぞ、某のかたちの如くなるぞと云い、ことの意をさとすには、その例を一つ二つ引き出づれば、言多からで、よくわかるるものなり。

現代語訳

総じて物の色や形、また事柄の意味を言い聞かせるのに、どれほど詳しく言っても、やはりはっきりとは分かりにくいことがよくある。そういうときは、それと同じ類いの物を挙げて、「あの色と同じだ」「何々の形のようだ」と言い、事柄の意味を分からせるには、その例を一つ二つ引き出せば、言葉を多くしなくてもよく分かるものである。

解説

前段の譬えの話を受けて、物事を説明するこつを述べた短い段である。色や形、事柄の意味は、言葉を尽くしてもかえって伝わらないことが多い。そういうときは似た物を挙げて「あの色と同じだ」「あの形のようだ」と示し、意味を伝えるには実例を一つ二つ引けば、言葉少なでもよく分かる、と宣長は言う。これは古事記伝の注釈の書き方そのものでもある。宣長は古語の意味を定義で説明するより、古典の用例を並べて、読者が自分で語の働きをつかめるようにした。鈴屋で多くの門人を教えた経験も、この実感を支えていただろう。抽象的な言葉を重ねる前に具体例を一つ出せという教えは、今の教育や文章術でもそのまま通用する。

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る