玉勝間 / 十の巻 かぐら
かぐらは、古へは、神あそびとぞ云へる。されば其歌をも、古今集には、かみあそびの歌とぞしるされたる。神樂と書るも、古くはかみあそびとぞ訓ムべき。かぐらと云ふ名は、如何なる由にて、いつの程よりか云ひそめけむ。六帖の題にはかぐらと書けり。
新字:かぐらは、古へは、神あそびとぞ云へる。されば其歌をも、古今集には、かみあそびの歌とぞしるされたる。神楽と書るも、古くはかみあそびとぞ訓ムべき。かぐらと云ふ名は、如何なる由にて、いつの程よりか云ひそめけむ。六帖の題にはかぐらと書けり。
書き下し
かぐらは、古えは、神あそびとぞ云える。さればその歌をも、古今集には、かみあそびの歌とぞしるされたる。神楽と書けるも、古くはかみあそびとぞ訓むべき。かぐらと云う名は、如何なる由にて、いつの程よりか云いそめけむ。六帖の題にはかぐらと書けり。
現代語訳
神楽(かぐら)は、古くは「神遊び」と言った。だからその歌をも、古今集には「かみあそびの歌」と記してある。「神楽」と書いてあるのも、古くは「かみあそび」と訓むべきである。「かぐら」という名は、どういうわけで、いつ頃から言い始めたのだろうか。古今和歌六帖の題には「かぐら」と書いてある。
解説
神楽という言葉の古い呼び名を確かめた短い段である。宣長は、古くは神前の歌舞を「神あそび」と言い、古今集の巻二十にも「神遊びの歌」とあることを挙げて、「神楽」と漢字で書かれていても古い文献では「かみあそび」と訓むべきだとする。一方で、今普通に使う「かぐら」という名がいつ、どういう由来で生まれたのかは分からないと正直に述べ、古今和歌六帖の題に「かぐら」とあることだけを記して止めている。表記と読みを分けて古い読みを復元するのは、古事記を訓むために宣長が生涯続けた作業そのものである。分からないことは分からないと書き、手がかりだけを残す誠実さもある。見慣れた言葉にも、今とは違う古い呼び名が隠れていることに気づかせる一段である。
関連する章句
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『玉勝間』十一の巻 又神楽の調子同書に、資忠云わく、上代は神楽は無調なり、しかるに近来すべて壱越調を以てこれを為す、我が世に相替わる事これなりと云えり。さきに、しるせると異なるはいかにぞや。今思うに、この説まことに然るべし。さきの、神楽はもと平調なりと云える説は、ひがことなるべし。これに我が世云云と云えるは、この資忠と云いし人の世の程に、かく変わりぬる由なり。
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『玉勝間』九の巻 能と云ふ楽西宮記相撲の条に、相撲了りて能優一番と有り。能優は、猿楽のたぐいと聞こえたり。近き世に、能と云う名はこれなるべし。この能の字は、音態なるべきに、ノウと云うは、昔より誤れるにや。
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『玉勝間』十二の巻 八人のやをとめ俗に八人のやおとめと云うこと有り。土御門の内大臣通親公の、厳島御幸の記に、御神楽のやおとめ八人と見えたり。
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『玉勝間』六の巻 岩くらうつ同じ百首に榊兼昌、「いこま山手向はこれか木の本に岩くらうちて榊たてたり。この下句、神代の巻に、神籬磐境と有る物のさまと聞こゆ。いわくらうつとは、磐をもて座をかまうる意なるべし。
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『玉勝間』十一の巻 肥後国の神楽歌蔵手。いさやうちおきのみしまに塩かけてかいたる塩ぞ神はよろこぶ、東には日月さやかにひをてらす西にはよをつけよを経給う、北には一りょうみょうけん大将軍とのとのづくり南に南海をたてたり、一目のよとみの池に船うけてのぼるはやまもくだるはやまも、みさやまの諏訪のみまえの初穂花まいれる人のかざしなるもの、天照大神宮のゆうだすきかけての後ぞたのしかるもの、水神のましましさきに綾はえて錦をはえてとくと踏せん、土佐の国はたの郡の北野なる客の天神といわいそめけん、土佐の国ありほが嶽にてる紅葉くれない紅葉色かえて見ん。上の件りの歌どもは、肥後国の神楽歌なりとて、かの国人の見せたるなり。かの国には、いずれの社の神楽にも、この歌どもをうたうとぞ。
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『玉勝間』十一の巻 肥後国の神楽歌地誉歌。むかしより世をはじめ給うおお太子よのよきことをおきてはじめん、御手幣を手にとりもちておがめば、四方の神も花とよむらん、よき馬によきくらしきて手綱かけ朝日にむいて神をしょうせん、神の父いずくにますぞ幣さしてとおりにまいる神をしょうせん、神の母いずくにますぞみくまもり出雲にまいる神をしょうせん、神しょうし磯をぞまわるあまおぶねかいかじそろえ船子さだめん。高所。たんなんたいらの神棚にかおよき女体おわします、おっとはたれぞととい(ひ)たれば松のうら葉のとみ男、おさなききんだちみやしろに学問せよとてあけたれば、うめと桜にたわむれて五葉の松とぞなり給う、われらが植木のせきようはつくつくぼうしをなべすえて、あゆみ給えばあとごとに七本蓮花の花ひらく、南おもてのひろ縁にいとげの車やりすえて、南面の泉水にようある鳥こそきていたり、この殿のみかどのまえにはよしうえてまいれる人によしといわせん、この殿の十二の柱はかねよたたおせどもひけどもなびかざらまし、この殿をあたらし殿とたれかなづく九国のとののふるやなるもの、酒殿に酒はつくりつももはらやちはらの酒ぞ神はめすらん、酒殿に風の吹かしさらさらとしげ木が本を宿とさだめん、酒殿に入り来るとみのかえらんばおかの子共と物語せん。
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