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玉勝間 / 九の巻 硯がめ

同書石蔭ノ卷に、御まへの御すずりがめと有るは、俗に云ふ水入レなり。

新字:同書石蔭ノ巻に、御まへの御すずりがめと有るは、俗に云ふ水入レなり。

書き下し

同書石蔭の巻に、御まえの御すずりがめと有るは、俗に云う水入れなり。

現代語訳

同じ書(『栄花物語』)の石蔭の巻に「御前の御硯瓶」とあるのは、世間で言う「水入れ」(硯に水を差す器)である。

解説

『栄花物語』に出る「硯瓶」という言葉が、今でいう水入れのことだと示した、ごく短い段である。水入れは硯に注ぐ水を入れておく小さな器で、文人の机には欠かせない道具であった。平安の貴族の御前にも、同じ役目の器が置かれていたのである。宣長は、自分の机の上にある道具の古い名を物語の中に見つけて書き留めた。古典に出てくる物の名が今の何にあたるかを一つずつ押さえておかないと、物語の場面は正しく思い描けない。こうした小さな考証が、宣長の源氏物語や栄花物語の講釈を支えていたのだろう。書く人の道具の名に目が留まるところにも、書き物に生きた人の日常がのぞいている。

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