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玉勝間 / 八の巻 鏡のうらに鶴をいつくる事

今の世に、鏡の裏には、多く松竹鶴龜のかたを鑄つくるなり。拾遺集賀ノ部に、伊勢、千年ともなにかいのらむうらにすむたづのうへをぞ見るべかりける、此歌のはしの詞に、かがみいさせ侍ける、裏に鶴のかたを鑄つけさせ侍てと有。

新字:今の世に、鏡の裏には、多く松竹鶴亀のかたを鋳つくるなり。拾遺集賀ノ部に、伊勢、千年ともなにかいのらむうらにすむたづのうへをぞ見るべかりける、此歌のはしの詞に、かがみいさせ侍ける、裏に鶴のかたを鋳つけさせ侍てと有。

書き下し

今の世に、鏡の裏には、多く松竹鶴亀のかたを鋳つくるなり。拾遺集賀の部に、伊勢、千年ともなにかいのらむうらにすむたずのうえをぞ見るべかりける、此歌のはしの詞に、かがみいさせ侍りける、裏に鶴のかたを鋳つけさせ侍りてと有り。

現代語訳

今の世に、鏡の裏には多く松・竹・鶴・亀の形を鋳出して作る。拾遺集の賀の部に、伊勢の「千年ともなにか祈らん浦に住む鶴の上をぞ見るべかりける(千年の長寿をどうして祈る必要があろう、浦に住む鶴の身の上を見ればよいのだから)」とあり、この歌の詞書に「鏡を鋳させました時、裏に鶴の形を鋳付けさせまして」とある。

解説

鏡の裏に鶴などのめでたい文様を鋳出す習いが、平安時代にすでにあったことを示した段である。江戸時代の和鏡は、裏に松竹鶴亀などの吉祥の文様を鋳出したものが多く、嫁入り道具や贈り物として喜ばれた。宣長は、拾遺集に載る伊勢の歌の詞書に、鏡を鋳させて裏に鶴の形を付けさせたとあるのを見つけた。歌は、「浦」と鏡の「裏」とを掛け、裏に住む鶴を見れば千年の長寿は祈るまでもないと、贈る相手の長寿を寿いでいる。鶴は千年、亀は万年と言われる長寿の象徴であり、その形を鏡に鋳出すことは、持ち主の長寿と幸せを願う心の表れであった。宣長は、今の習俗の起こりを確かな歌集の記事で確かめ、それが平安時代の贈答の心遣いから続いていることを示した。日常の道具に込められた祈りの形が、千年を越えて受け継がれてきたことを教え、八の巻を穏やかに結ぶ段である。

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