玉勝間 / 八の巻 だるし
手足のたゆきを、俗言に、だるいと云ふ、伊勢などにては、かいだるいと云へり。此言曾丹集に、「わぎもこが今朝の朝菜にひかされてせなさへあまりかいだゆきかな、伊勢が集に、「よもすがら物思ふときのつらづゑはかひなたるさぞ知られざりける。此歌夫木抄には、三四の句、手枕はかいだるさこそと有。
新字:手足のたゆきを、俗言に、だるいと云ふ、伊勢などにては、かいだるいと云へり。此言曽丹集に、「わぎもこが今朝の朝菜にひかされてせなさへあまりかいだゆきかな、伊勢が集に、「よもすがら物思ふときのつらづゑはかひなたるさぞ知られざりける。此歌夫木抄には、三四の句、手枕はかいだるさこそと有。
書き下し
手足のたゆきを、俗言に、だるいと云う、伊勢などにては、かいだるいと云えり。此言曾丹集に、わぎもこが今朝の朝菜にひかされてせなさえあまりかいだゆきかな、伊勢が集に、よもすがら物思うときのつらずえはかいなたるさぞ知られざりける。此歌夫木抄には、三四の句、手枕はかいだるさこそと有り。
現代語訳
手足がだるいのを、俗語で「だるい」と言い、伊勢などでは「かいだるい」と言っている。この言葉は、曾丹集に「わぎもこが今朝の朝菜にひかされてせなさえあまりかいだゆきかな(妻の今朝の朝菜摘みに付き合わされて、背中までひどくだるいことよ)」、伊勢集に「夜もすがら物思うときの頬杖はかいなたるさぞ知られざりける(一晩中物思いにふけるときの頬杖は、腕のだるさも気づかないものだ)」とある。この歌は夫木抄では、三・四の句が「手枕はかいだるさこそ」となっている。
解説
関連する章句
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『玉勝間』八の巻 ぬたうつ夫木集に、俊頼朝臣、君こうと猪のかるもよりねざめしてあみけるぬたにやつれてぞふる、待賢門院の安芸、恋をしてふすいの床はまどろまでぬたうちさますよわのねざめよ、今の世にいやしき詞に、のたる又のたうつなど云うは、これなり。
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『玉勝間』三の巻 とかたと云ふ詞童蒙抄に、山家の冬の夜と云うこころを、経信卿、「山里は夜床さえつつ明にけりとかたぞかねの音のすなるは、これいずかたぞと云うべきを、とかたぞと詠めり、いかがとあり。今の世の言に、いずくを、どこと云い、いずれをどれ、いずちまたいずかたを、どちと云うは、此とかたのとにやあらん。
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『玉勝間』八の巻 おひなる女の詞に、人の寝たるが起くる事を、おひなると云う。伊勢などにては、おひるなると云う。
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『玉勝間』七の巻 ゐなかに古への雅言ののこれる事すべて田舎には、古の言の残れること多し、殊に遠き国人の云う言の中には、面白き事どもぞまじれる。おのれ年頃心をつけて、遠き国人の、とぶらい来たるには、必ずその国の詞を問い聞きもし、その人の云う言をも、心とどめて聞きもするを、なお国々の詞どもを、あまねく聞きあつめなば、いかに面白きこと多からん。近き頃、肥後の国人のきたるが、云うことを聞けば、世に見える聞えるなど云うたぐいを、見ゆる聞こゆるなどぞ云うなる。こは今の世には絶えて聞こえぬ、雅びたることばづかいなるを、その国にてはなべてかく云うにやと問いければ、ひたぶるの賤山がつは皆、見ゆる、きこゆる、さゆる、たゆる、などように云うを、少し言葉をもつくろう程の者は、多くは見える、聞える、とように云うなり、とぞ語りける。そはなかなか今の世の俗き云いざまなるを、なべて国々の人の云うから、そを善き事と心得たるなんめり。
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『玉勝間』八の巻 言の然云ふ本の意を知らまほしくする事たとい其もとの意は、よく明らめたらむにても、いかなる所に使いたりと云う事を知らでは、何のかいも無く、おのが歌文に用うるにも、ひがことの有るなり。今の世古学をするともがらなど殊に、すこし遠き言と云えば、まず然云う本の意を知らむとのみして、用いたる意をば、考えむともせざる故に、おのが使うに、いみじきひがことのみ多きぞかし。すべて言は、然云う本の意と、用いたる意とは、多くは等しからぬ物なり、たとえばなかなかにと云う言はもと、こなたへもかなたへも附かず、中間なる意の言なれども、用いたる意はただ、なまじいにと云う意、又移りては、かえりてと云う意にも用いたり。然るを言の本によりて、打まかせて、中間なる意に用いては、たがうなり。又心ぐるしと云う言は、今の俗言に、気毒なると云う意に用いたるを、言のままに、心の苦き事に用いては、たがえり。されば是等にて、万の言をも、なずらえ心得て、まず古えに用いたるようを、さきとして、明らめ知るべし、言の本にのみよりては、中々に古えにたがう事多かるべしかし。
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