玉勝間 / 八の巻 くぎぬき門
屋根も無くて、門のやうしたる物を、くぎぬきと云ふは、狹衣の物語に、門なども無くて、唯だくぎぬきと云ふ物をぞしたりけると有り。
新字:屋根も無くて、門のやうしたる物を、くぎぬきと云ふは、狭衣の物語に、門なども無くて、唯だくぎぬきと云ふ物をぞしたりけると有り。
書き下し
屋根も無くて、門のようしたる物を、くぎぬきと云うは、狭衣の物語に、門なども無くて、唯だくぎぬきと云う物をぞしたりけると有り。
現代語訳
屋根もなくて、門のような形をしたものを「くぎぬき」と言うのは、狭衣物語に「門などもなくて、ただくぎぬきというものをしてあった」とある。
解説
屋根のない簡素な門「くぎぬき(釘貫)」の名の古い用例を、狭衣物語から示した段である。釘貫は、柱を立てて横木を貫き渡しただけの門や柵で、屋根をかけないため、質素な住まいや町の入口などに用いられた。江戸時代には、町ごとの木戸などの簡素な構えとして見慣れたものであった。狭衣物語の場面では、立派な門のない住まいの様子を表すのに「ただくぎぬきをしたる」と言っており、平安時代後期にはすでに、この簡素な門の形とその名があったことが分かる。宣長は、物語の中の住まいの描写から、今の町並みにある物の名の由来を拾い上げた。物語を、筋を楽しむだけでなく、昔の人々の住まいや道具の姿を知る資料として読むのは、この巻に一貫する宣長の読み方である。街角で見かける簡素な門の形にも、長い歴史が重なっていることを知らせてくれる段である。
関連する章句
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