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玉勝間 / 八の巻 十二支の巳を美と云ふ事

十二支の子を、禰と云ふは、ねづみの略き、卯を宇と云ふは、莵なり。これは古書どもに、宇の借字にも、蒐と書り。さて是等はあらはなるを、巳を美と云ふは、蛇の和名倍美と、和名抄に有る、是れなり。さて丑寅など皆、二もじの名は、略けるは無きに、巳のみ略き、三もじの名は、ねづみ、うさぎ皆はぶけるに、未のみは略かず。

新字:十二支の子を、祢と云ふは、ねづみの略き、卯を宇と云ふは、莵なり。これは古書どもに、宇の借字にも、蒐と書り。さて是等はあらはなるを、巳を美と云ふは、蛇の和名倍美と、和名抄に有る、是れなり。さて丑寅など皆、二もじの名は、略けるは無きに、巳のみ略き、三もじの名は、ねづみ、うさぎ皆はぶけるに、未のみは略かず。

書き下し

十二支の子を、禰と云うは、ねずみの略き、卯を宇と云うは、兎なり。これは古書どもに、宇の借字にも、菟と書けり。さて是等はあらわなるを、巳を美と云うは、蛇の和名倍美と、和名抄に有る、是れなり。さて丑寅など皆、二もじの名は、略けるは無きに、巳のみ略き、三もじの名は、ねずみ、うさぎ皆はぶけるに、未のみは略かず。

現代語訳

十二支の子を「ね」と言うのは「ねずみ」の略であり、卯を「う」と言うのは「うさぎ(兎)」である。これは古い書物に「う」の借字にも「菟」と書いている。さてこれらは明らかであるが、巳を「み」と言うのは、蛇の和名が「へみ」と和名抄にある、これである。さて丑(うし)・寅(とら)などみな二文字の名は略したものはないのに、巳だけは略し、三文字の名は「ねずみ」「うさぎ」みな省いているのに、未(ひつじ)だけは略さない。

解説

十二支の和名の略し方の不揃いに気づいた段である。子を「ね」、卯を「う」と言うのは、「ねずみ」「うさぎ」を略したもので、巳を「み」と言うのも、和名抄に蛇の古い和名が「へみ」とあることから、その略だと宣長は説く。ところが、丑や寅のような二音の名はそのまま言うのに巳だけは「へみ」を「み」と略し、三音の名は「ねずみ」「うさぎ」を略すのに、未の「ひつじ」だけは略さない。宣長は、この不揃いを指摘するだけで理由を説明しない。言葉の成り立ちには、理屈で割り切れない慣習の力が働いていることを、あるがままに示しているのであろう。当たり前に使っている言葉の中にある小さな不規則に気づく目は、学問の出発点である。なぜだろうと問う心を刺激してくれる段である。

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