玉勝間 / 八の巻 くらかけ
これも同物語に、移のくら廿具、鞍かけにかけたりと有リ。然ればくらかけと云ふ物は、もと馬の鞍をかくる具の名なり。
書き下し
これも同じ物語に、移のくら二十具、鞍かけにかけたりと有り。然ればくらかけと云う物は、もと馬の鞍をかくる具の名なり。
現代語訳
これも同じ物語(宇治拾遺物語)に「移鞍(うつしぐら)二十具を、鞍掛けに掛けてあった」とある。そうであれば「くらかけ」というものは、もとは馬の鞍を掛ける道具の名である。
解説
「鞍掛(くらかけ)」という語の本来の意味を、宇治拾遺物語の用例から確かめた段である。江戸時代には、くらかけといえば、踏み台や作業台に使う四脚の台を指すことが多かった。宣長は、物語に「移の鞍二十具、鞍掛けに掛けたり」とあるのを見て、くらかけはもとは文字どおり馬の鞍を掛けておく道具の名だったと指摘する。移鞍は、馬寮などの馬に置いて用いる鞍のことで、二十具もの鞍が鞍掛けに並ぶさまが描かれている。形が似ていることから、鞍を掛ける台の名が、やがて別の用途の台の名に移ったのであろう。道具の名が、元の用途を離れて形の似た別の物に移っていくことはよくある。宣長は、そうした言葉の移り変わりを、説話の中の何気ない一文から見抜いている。今も「くらかけ」と呼ばれる台に、馬とともにあった暮らしの記憶が残っていることに気づかせてくれる。
関連する章句
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