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玉勝間 / 七の巻 人をあがめて様と云ふ事

人をたふとみて、樣と云ふこと、四百四五十年ばかりもあなたのふみどもより始まりて、をりをり見えたり。上樣、前朝樣、禁裏樣、御所樣、公方樣、宮御方樣、德大寺樣、女中樣など見え、書狀のあて名にも、御つぼね樣なども有り。又鹿苑院殿樣、室町殿樣など、殿樣と重ねて云へる事も見えたり。

新字:人をたふとみて、様と云ふこと、四百四五十年ばかりもあなたのふみどもより始まりて、をりをり見えたり。上様、前朝様、禁裏様、御所様、公方様、宮御方様、徳大寺様、女中様など見え、書状のあて名にも、御つぼね様なども有り。又鹿苑院殿様、室町殿様など、殿様と重ねて云へる事も見えたり。

書き下し

人をたっとみて、様と云うこと、四百四五十年ばかりもあなたのふみどもより始まりて、おりおり見えたり。上様、前朝様、禁裏様、御所様、公方様、宮御方様、徳大寺様、女中様など見え、書状のあて名にも、御つぼね様なども有り。また鹿苑院殿様、室町殿様など、殿様と重ねて云える事も見えたり。

現代語訳

人を敬って「様」と言うことは、四百四、五十年ほど前の書物から始まって、ときどき見える。「上様」「前朝様」「禁裏様」「御所様」「公方様」「宮御方様」「徳大寺様」「女中様」などが見え、書状の宛名にも「御つぼね様」などがある。また「鹿苑院殿様」「室町殿様」など、「殿」と「様」を重ねて言った例も見える。

解説

敬称「様」がいつから使われたかを記した段である。宣長の頃から四百四、五十年前といえば南北朝から室町の初めにあたり、それまで続いてきた園太暦などの抜き書きの流れから、その時代の文献に「様」が現れることを示したものである。上様・禁裏様・公方様と身分の高い人に付けるほか、家名や女房にも付け、さらに「鹿苑院殿様」のように「殿」の上に「様」を重ねる例まであった。敬称は使ううちに敬意がすり減り、より丁寧な語が上に重ねられていく。「殿」だけでは足りなくなって「様」が加わる過程がこの例に見える。今では誰にでも付ける「様」にも、始まりの時代があった。宣長は、日々使う言葉の歴史を知ることで、今の言葉づかいを相対化して見る目を養っていた。

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