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玉勝間 / 七の巻 たたう紙

園大曆に、德大寺ノ前ノ內大臣より、公賢ノ大臣に、くさぐさの事共問たまへる、條條の中に、一帖紙は不及沙汰之由、蒙仰候し、只朝夕用候、白候やらん、若薄などちと散ばみたる物にや候べき、現在鼻垂候はば、可取出の間、可有之樣、大切候歟、公卿已後も、薄樣帖紙持たる事も、よそには見及候し、是は若夏の事候やらん、紅の帖紙、古物をば持て候と有り。帖紙は、今ノ世ふところにもつ、はな紙の事なり。

新字:園大暦に、徳大寺ノ前ノ内大臣より、公賢ノ大臣に、くさぐさの事共問たまへる、条条の中に、一帖紙は不及沙汰之由、蒙仰候し、只朝夕用候、白候やらん、若薄などちと散ばみたる物にや候べき、現在鼻垂候はば、可取出の間、可有之様、大切候歟、公卿已後も、薄様帖紙持たる事も、よそには見及候し、是は若夏の事候やらん、紅の帖紙、古物をば持て候と有り。帖紙は、今ノ世ふところにもつ、はな紙の事なり。

書き下し

園太暦に、徳大寺の前の内大臣より、公賢の大臣に、くさぐさの事ども問いたまえる、条々の中に、一帖紙は沙汰に及ばざるの由、仰せを蒙り候いし、只朝夕用い候、白く候やらん、もし薄などちと散ばみたる物にや候べき、現在鼻垂れ候わば、取り出だすべきの間、之有るべき様、大切に候か、公卿已後も、薄様の帖紙持ちたる事も、よそには見及び候いし、これはもし夏の事に候やらん、紅の帖紙、古物をば持ちて候と有り。帖紙は、今の世ふところにもつ、はな紙の事なり。

現代語訳

園太暦(洞院公賢の日記)に、徳大寺の前内大臣から公賢大臣にさまざまな事をお尋ねになった条々の中に、「一、帖紙(たとうがみ)のことは取り沙汰するほどのことではないと仰せをいただきましたが、ただ朝夕使っておりますが、白いものでしょうか、あるいは薄(金銀の箔)などを少し散らしたものでしょうか。実際に鼻水が垂れたときには取り出さねばなりませんので、どんなものを持つべきか大切なことでございましょうか。公卿になってからも薄様の帖紙を持っているのを、よそで見かけたことがございました。これはあるいは夏のことでしょうか。紅の帖紙は、古物を持っております」とある。帖紙とは、今の世で懐に持つ鼻紙のことである。

解説

南北朝時代の公卿洞院公賢の日記『園太暦』から、懐紙の作法を問う一条を書き抜いた段である。徳大寺家の前内大臣が有職故実の大家である公賢に、帖紙は白がよいか箔を散らしたものがよいか、鼻水が出たとき取り出すのにどんな物がふさわしいかと大真面目に尋ねている。宣長はそれを、今の懐の鼻紙のことだと一言添えるだけである。この段から園太暦の抜き書きが続くが、宣長は日記の中に、今の世の言葉や道具の古い姿を探している。畳紙(たとう紙)という今の語の由来が、南北朝の公卿の懐にあったことを確かめたのである。貴族が鼻紙の色まで気にかけて先達に問うたという事実は、礼法が細部の実用と結びついていたことも伝える。身近な物の名にも歴史がある、という目を宣長は持ち続けた。

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