玉勝間 / 六の巻 いてし氷
堀川院百首氷室の歌に、「冬寒みいてし氷を埋みおきて云云。今の世の言に、寒くて物のさえかたまるを、いてると云ふ是れなり。
書き下し
堀川院百首の氷室の歌に、「冬寒みいてし氷を埋みおきて云云。今の世の言に、寒くて物のさえかたまるを、いてると云う是れなり。
現代語訳
堀河院百首の「氷室」の題の歌に「冬が寒いので凍てついた氷を埋めておいて」云々とある。今の世の言葉で、寒くて物が冷えて固まるのを「いてる」というのは、これである。
解説
寒さで凍ることを「いてる(凍てる)」と言う言葉が、平安後期の和歌にすでにあることを示した短い一段である。堀河院百首は、堀河天皇の時代に十数人の歌人が同じ百の題で詠んだ百首歌で、後の題詠の手本となった。その氷室の題の歌に「いてし氷」とある。宣長の時代、「いてる」は話し言葉の語と思われていたのだろう。宣長は、今の世の話し言葉の中にも古い言葉が生きていることを、こうした用例で示そうとした。古語と俗語とを切り離さず、一続きのものとして見る目である。今も「凍てつく」と言うが、その言葉は九百年前の歌人の冬の実感にさかのぼる。
関連する章句
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