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玉勝間 / 六の巻 木にはなれたる猿

赤染衞門集に、「たよりなき旅とは我ぞ思ひつる木をはなれたるさるも鳴ッなり。

新字:赤染衛門集に、「たよりなき旅とは我ぞ思ひつる木をはなれたるさるも鳴ッなり。

書き下し

赤染衛門集に、「たよりなき旅とは我ぞ思いつる木をはなれたるさるも鳴くなり。

現代語訳

赤染衛門集に「頼るものもない心細い旅だと私は思っていたが、木を離れた猿も鳴いていることだ」という歌がある。

解説

赤染衛門の家集から、木を離れた猿を詠んだ一首だけを書き留めた、玉勝間でも最も短い部類の一段である。木を離れた猿は、よりどころを失った者の姿として読める。宣長は題に「木にはなれたる猿」と掲げ、この言い回しが平安中期の女流歌人の歌にすでに見えることを示したかったのだろう。旅の心細さを、木を離れて鳴く猿に重ねた歌の心は、今の読者にも分かりやすい。赤染衛門は大江匡衡の妻で、藤原道長の妻倫子に仕えた歌人である。宣長は、世に流布する言い回しの古い用例を歌集の中から拾い集めることを、手控えとして重ねていた。慣用の言い回しにも、それを最初に形にした誰かの実感がある。

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