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玉勝間 / 六の巻 一条天皇かくれさせ給ひて後御手箱に在ける宸筆の物の事

一條院うせさせ給ひて後、御堂殿御遺物共のさだ有けるに、御手箱の有けるを、ひらき御覽じけるに、宸筆の宣命めかしき物を、書かせおはしましたりけるを、はじめに三光欲明覆重雲大精暗とあそばされたりけるを、御覽じて、次さまを讀ませたまはで、やがて卷きこめて、燒きあげられにけりとこそ。宇治殿は、隆國(宇治大納言)には語らせ給ひけると、隆國は記して侍るなれ。

新字:一条院うせさせ給ひて後、御堂殿御遺物共のさだ有けるに、御手箱の有けるを、ひらき御覧じけるに、宸筆の宣命めかしき物を、書かせおはしましたりけるを、はじめに三光欲明覆重雲大精暗とあそばされたりけるを、御覧じて、次さまを読ませたまはで、やがて巻きこめて、焼きあげられにけりとこそ。宇治殿は、隆国(宇治大納言)には語らせ給ひけると、隆国は記して侍るなれ。

書き下し

一条院うせさせ給いて後、御堂殿御遺物どものさだ有りけるに、御手箱の有りけるを、ひらき御覧じけるに、宸筆の宣命めかしき物を、書かせおわしましたりけるを、はじめに三光明らかならんと欲するに、重雲覆いて大精暗しとあそばされたりけるを、御覧じて、次さまを読ませたまわで、やがて巻きこめて、焼きあげられにけりとこそ。宇治殿は、隆国(宇治大納言)には語らせ給いけると、隆国は記して侍るなれ。

現代語訳

一条院がお亡くなりになった後、御堂殿(藤原道長)が遺品の整理をなさったところ、御手箱があったので開いてご覧になると、天皇ご自筆の宣命めいたものを書いておられて、その初めに「日月星の三光は明らかであろうとするのに、重なる雲が覆って、大いなる光は暗い」とお書きになっていたのをご覧になって、その続きをお読みにならず、そのまま巻き込めて焼いてしまわれたということだ。宇治殿(藤原頼通)は、これを隆国(宇治大納言、源隆国)にお語りになったと、隆国は記している。

解説

一条天皇が亡くなった後、手箱から見つかった自筆の文を藤原道長が読まずに焼き捨てた、という話を書き留めた一段である。書き出しの、三光は明らかであろうとするのに重なる雲に覆われて暗い、という句は、君の明を臣が覆っている、つまり道長の専横を嘆いたものと解されてきた。道長はそれを察して続きを読まずに焼いた、というのである。話は道長の子頼通が源隆国に語り、隆国が書き留めたと伝わる。宣長は評を加えずに写しているが、権勢の頂点にいた者が天皇の心の声を闇に葬ったという話は、記録が誰の手で残り、誰の手で消されるかを考えさせる。消されかけた言葉も、語り継いだ人がいたから今に届いている。

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