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玉勝間 / 五の巻 しのぶもぢずり

されどまことに然かなりけんも知りがたきを、ひたぶるに僞言なりとは云ふべくもあらず。その石の事は、とまれかくまれ、信夫郡より出せりし事は、論無きをや。

新字:されどまことに然かなりけんも知りがたきを、ひたぶるに偽言なりとは云ふべくもあらず。その石の事は、とまれかくまれ、信夫郡より出せりし事は、論無きをや。

書き下し

されどまことに然かなりけんも知りがたきを、ひたぶるに偽言なりとは云うべくもあらず。その石の事は、とまれかくまれ、信夫郡より出だせりし事は、論無きをや。

現代語訳

けれども、本当にそうであったかどうかもわからないが、ひたすら作り話だとも言えないはずである。その石のことはともかくとして、信夫郡から産したことは議論の余地がないではないか。

解説

しのぶもじずり論を締めくくる短い段である。信夫郡の石で摺ったという言い伝えについて、宣長は、本当にそうだったかはわからないが、頭から作り話だと決めつけることもできない、と言う。そのうえで、石の話の真偽はともかく、信夫郡の産物だったことは疑いない、と結論を絞り込む。確かめられることと確かめられないことを分け、確かめられる所だけで主張を立てる。これは宣長の考証の基本の型である。真淵は伝承を偽言と切り捨てたが、宣長は切り捨てもせず、信じ込みもしない。今も福島市には「文知摺石」と呼ばれる石が名所として残る。わからないことを保留にしたまま、言える範囲ではっきり言う、という態度は、情報があふれる今こそ役に立つ。

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