玉勝間 / 五の巻 機のかざりと云ふ物
今の世機にかざりと云ふ物あるは、和名抄機の條に、機-巧之處、和加豆利と有る、此わかづりを訛れる名なり。和名抄今ノ本には、利ノ名を和に誤れり、古き本に利とあり。
新字:今の世機にかざりと云ふ物あるは、和名抄機の条に、機-巧之処、和加豆利と有る、此わかづりを訛れる名なり。和名抄今ノ本には、利ノ名を和に誤れり、古き本に利とあり。
書き下し
今の世機にかざりと云う物あるは、和名抄機の条に、機巧の処、和加豆利と有る、このわかづりを訛れる名なり。和名抄今の本には、利の字を和に誤れり、古き本に利とあり。
現代語訳
今の世、機(はた)に「かざり」という部品があるのは、『和名抄』の機の条に「機の巧みの処(仕掛けの部分)、和加豆利(わかつり)」とある、この「わかづり」がなまった名である。『和名抄』の今の本では「利」の字を「和」に誤っている。古い本には「利」とある。
解説
機織りの道具の部品「かざり」の名の由来を、平安中期の辞書『和名類聚抄』から探った段である。和名抄には、機の仕掛けの部分を「わかつり」と呼ぶとある。宣長は、それがなまって「かざり」になったと見る。あわせて、流布している和名抄の本では「利」の字が「和」に誤られていて、古い本では正しく「利」になっていると、本文の誤りまで指摘している。宣長は一冊の本を読むときも、写本や版の違いを比べて正しい本文を定めることを重んじた。職人の道具の名は文字に残りにくく、口から口へ伝わるうちに形を変える。宣長は、そうした名にも古語の痕跡を見いだそうとした。古い辞書と、今の暮らしの言葉をつなぐ考証である。
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