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玉勝間 / 五の巻 むさしと云ふわざ

童べのしわざに、むさしと云ふ物あり。五雜組と云ふ唐書に、委巷兒戯、有馬城、不論縦横、三子聯則爲城、城成則飛食人一子、其它或夾或挑、就近則食之、不能飛食也、と云へる、よく似たり。日本紀に、城をさしと訓ょるところあり、韓語なり。然ればむさしと云ふは、すなはち馬城か。

新字:童べのしわざに、むさしと云ふ物あり。五雑組と云ふ唐書に、委巷児戯、有馬城、不論縦横、三子聯則為城、城成則飛食人一子、其它或夾或挑、就近則食之、不能飛食也、と云へる、よく似たり。日本紀に、城をさしと訓ょるところあり、韓語なり。然ればむさしと云ふは、すなはち馬城か。

書き下し

童べのしわざに、むさしと云う物あり。五雑組と云う唐書に、委巷の児戯に、馬城有り、縦横を論ぜず、三子聯なれば則ち城となす、城成れば則ち飛びて人の一子を食う、其の它或いは夾み或いは挑み、近きに就けば則ち之を食う、飛び食うこと能わざるなり、と云える、よく似たり。日本紀に、城をさしと訓めるところあり、韓語なり。然ればむさしと云うは、すなわち馬城か。

現代語訳

子どもの遊びに「むさし」というものがある。『五雑組』という中国の書に、「町なかの子どもの遊びに馬城というものがある。縦横を問わず、三つの駒が連なれば城となる。城ができれば飛んで相手の駒を一つ取る。そのほかは、挟んだり挑んだりして、近くにあればこれを取るが、飛んで取ることはできない」と言っているのが、よく似ている。『日本書紀』に「城」を「さし」と訓んでいるところがあり、これは朝鮮の言葉である。そうであれば「むさし」というのは、すなわち「馬城」であろうか。

解説

子どもの盤上遊び「むさし」の名の由来を推し量った段である。明の謝肇淛の随筆『五雑組』に、中国の町の子どもが遊ぶ「馬城」という遊びが見え、三つの駒が並べば城となって相手の駒を取れるなど、むさしとよく似ている。さらに宣長は、日本書紀で「城」を「さし」と訓む例があり、これは朝鮮の言葉だと指摘する。そこで「む」を馬、「さし」を城と見て、むさしは馬城のことではないかと推測する。断定はしていない。宣長は漢意を厳しく批判したが、中国や朝鮮の書を読まなかったわけではなく、証拠として使えるものは使った。子どもの遊びの名という小さな題材から、言葉と文化の行き来をたどる。遊びにも歴史があるという、身近な考証の楽しさがある一段である。

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