玉勝間 / 五の巻 さうかふの字
台記別記、藤原多子名字勘文に、抑後宮、以從草合字爲名之人、贈后茂子茨子等、於皇胤吉例也。と有り。艸を草合と書かれたり。
新字:台記別記、藤原多子名字勘文に、抑後宮、以従草合字為名之人、贈后茂子茨子等、於皇胤吉例也。と有り。艸を草合と書かれたり。
書き下し
台記別記、藤原多子名字勘文に、そもそも後宮、草合に従う字をもって名となすの人、贈后茂子・茨子等、皇胤において吉例なり。と有り。艸を草合と書かれたり。
現代語訳
『台記別記』の「藤原多子名字勘文」に、「そもそも後宮で、草合(くさかんむり)の字を名にした人には、贈皇后の茂子・茨子などがあり、皇統にとって吉例である」とある。艸(くさかんむり)を「草合」と書いておられる。
解説
藤原頼長の日記『台記』の別記から、字の部首の呼び名を拾った短い段である。頼長の養女多子が近衛天皇の后として入内するにあたって、名の字を選ぶ勘文が作られた。そこで、くさかんむりの字を名に持った后には皇子を生んだ吉例がある、と説かれている。宣長が目をとめたのは中身より、くさかんむりを「草合」と書いている点である。今の「そうこう(草冠)」にあたる呼び名が、平安末にこう書かれていたという記録になる。宣長は語の歴史を、辞書ではなく実際に使われた文書から拾い集めた。名の字に吉凶を見る宮廷の習いもうかがえて、有職の記録が言葉の資料にもなることを示している。
関連する章句
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『玉勝間』七の巻 女御多子名字のさだ同別記、久安四年、頼長公の養女、入内によりて、名字を撰ばるるところに云わく、御名字の勘文拝見し、之を返上す、愚案の及ぶ所、多子優れ候か、名字の多きは、平声を用うべしと云々、また親王並びに婦人の名は、訓の未だ慥かならざるの字は用いずと云々、これ公の御前に出でて、声を読むべからず、訓を読むべきの故なりと云々、而るに近代、間訓の慥かならざる字等見え候、如何、なかんずく多の字、まさると云う訓候か、いよいよ神妙に覚え候、子細は只今参入して、言上せしむべく候の状件のごとし、八月七日、大外記中原師安(請文)と有り。名字とは、ただ名のことなり。
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『玉勝間』八の巻 貴下今世に、しょうそこ文の当名のかたわらに、貴下と書くこと有り。台記に、足下など云うべき所に、貴下と書かれたること所々に見えたり。
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『玉勝間』七の巻 頼長公の印の事同記に、文章博士茂明朝臣に仰せて、印の字様を勘えしむ、(これ頼の字の古文なり、名の上の字を用うる例なり、)云々、印、(銅を以て之を鋳る)方一寸九分、高さ一寸八分、壺、(銅を以て之を鋳る、)その形小桶のごとし、身、(口径三寸七分、牙の下を指して之を言う、)深さ一寸七分、蓋、(口径身に同じ、深さ三分)。
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『玉勝間』十二の巻 さかやかすと云へる詞小右記に、大夫の名は隆家、訓読にいえさかやかすと云う、尤も興有る事なり、と有り。さかやかすと云う詞、俗きに似たり。そのかみも、かくも云えりしにこそ。絶やす燃やすなどの例に、さかやすと云うべき事とぞおぼゆる。
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『玉勝間』八の巻 男の名にも某子と云へる事又敏達の御巻なる糠手子の連を、崇峻の御巻には、糠手の連と見え、舒明御巻に、中臣の連弥気と有る人を、家の系図には、御食子の大連公と見え、又皇極の御巻に、巨勢の臣徳太とある人を、孝徳の御巻には、徳陀古とも有る、これらをもて見れば、子と云う事を、はぶきても添えても云えるも有しにや。
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『玉勝間』八の巻 男の名にも某子と云へる事中昔よりこなた、女の名に某子と云う事、なべての例なり、古えにもおりおり見えたり。さて古えは、男の名にも、子と云える多し。まず神武天皇の御世に、石押分之子、贄持之子と云う有り。古事記仁徳天皇の御段に、丸邇臣口子、書紀応神の御巻に、壱岐の直真根子、仁徳の御巻に、茨田の連衫子、又佐伯の直阿俄能胡、履中の御巻に、阿曇の連浜子、雄略の御巻に、佐伯部の仲子、又難波の吉士赤目子、又倭子の連、又水の江の浦嶋の子、継体の御巻に、筑紫の君葛子、又目頬子、安閑の御巻に、稚子の直、欽明の御巻に、中臣の連鎌子、又葛城の山田の直瑞子、敏達御巻に、吉士金子、又大伴の糠手子の連、又物部の贄子の連、推古御巻に、小野の臣妹子など見えたり。さて右の名どもの中に、石押分之子、贄持之子、古事記書紀ともに、之の字あり。仁徳の御巻の、衫子の訓注に、莒呂母能古と見え、また阿俄能胡、又浦嶋の子、又中臣の系図に、鎌足公の祖父の名、方子とも、加多能子とも書る、是等によらば、すべて皆某之子と、之をそえて訓むべきかと思わるれど、又継体の御巻なる目頬子を、歌に梅豆羅古と有れば、なべて之と云うべきにも有らず。さて又推古の御巻に、阿倍の臣鳥と云う人を、鳥子とも有り。
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