玉勝間 / 五の巻 老ノ恋のうた
六百番ノ歌合に、老ノ戀、隆信ノ朝臣、「色にそむ心は同じむかしにて人のつらさに老をしるかな。俊成ノ卿判ニ云ク、げにさる事ときこゆ、可爲勝。
新字:六百番ノ歌合に、老ノ恋、隆信ノ朝臣、「色にそむ心は同じむかしにて人のつらさに老をしるかな。俊成ノ卿判ニ云ク、げにさる事ときこゆ、可為勝。
書き下し
六百番の歌合に、老の恋、隆信の朝臣、「色にそむ心は同じむかしにて人のつらさに老をしるかな。俊成の卿判に云く、げにさる事ときこゆ、勝となすべし。
現代語訳
『六百番歌合』の「老いの恋」の題で、隆信朝臣(藤原隆信)の歌、「恋の色に染まる心は昔と同じままなのに、相手のつれなさによって、自分の老いを知ることだ」。俊成卿(藤原俊成)の判に言う、「まことにそのとおりのことと聞こえる。勝とすべきである」。
解説
鎌倉初期の『六百番歌合』から、老いの恋を詠んだ藤原隆信の一首と、藤原俊成の判を写した段である。恋する心は若い日と少しも変わらないのに、相手が冷たくなったことで、ああ自分は老いたのだと知る。老いを自分の内側ではなく、人の態度の変化から知らされるという苦い発見である。俊成は理屈をこねずに「げにさる事」、まことにそうだと認めて勝ちとした。宣長はこの判に共感して書き留めたのだろう。宣長は歌を、飾りではなく人の心のありのままを言うものと考えた。心は老いないのに身は老いる、その食い違いを素直に詠んだ歌を、実感で評価した判者の言葉がよい。短い段だが、歌の良し悪しを本当らしさで測る宣長の好みがよく出ている。
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