玉勝間 / 五の巻 とみにと云ふ言には早ノ字を書クべき事
三代實錄十三の卷なる宣命に、早爾罪郡倍不賜と有る。此早ノ字、とみにと訓ょべし。此詞によくあたれる所なり。つとにと訓めるは、あたらず。
新字:三代実録十三の巻なる宣命に、早爾罪郡倍不賜と有る。此早ノ字、とみにと訓ょべし。此詞によくあたれる所なり。つとにと訓めるは、あたらず。
書き下し
三代実録十三の巻なる宣命に、とみに罪なえ賜わず、と有る。この早の字、とみにと訓むべし。この詞によくあたれる所なり。つとにと訓めるは、あたらず。
現代語訳
『三代実録』巻十三にある宣命に「早に罪なえ賜わず(すぐには罪に問われない)」とある。この「早」の字は「とみに」と訓むべきである。この言葉によく当てはまる箇所である。「つとに」と訓んでいるのは当たらない。
解説
『日本三代実録』の宣命にある「早」の字の訓みを定めた短い考証である。宣命は天皇の命を和文の語順で記した文で、漢字の用い方から古い言葉を復元する手がかりになる。宣長は、ここの「早」は「つとに(朝早く、以前から)」ではなく「とみに(急に、すぐに)」と訓むべきだとする。文脈は罪をただちには問わないという意味だから、時間の早さ一般ではなく、即座にという「とみに」が合う、という判断である。古事記伝で宣長が取り組んだのも、漢字で書かれた古文を正しい和語で訓み直す作業だった。一字の訓みを文脈から決めるこの小さな段は、その方法を縮めて見せている。字面だけでなく、前後の意味で言葉を決めるという読みの基本がここにある。
関連する章句
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『玉勝間』四の巻 奏寿宣命の儀三代実録十四に云う、貞観九年正月十七日、二品仲野親王薨ず云々、親王能く奏寿宣命の道を解す、音儀詞語、模範と為すに足る、当時の王公、その儀を識ること罕なり、参議藤原朝臣基経・大江朝臣音人に勅して、親王の六条の亭に就きて、その音詞曲折を受け習わしむ、故致仕左大臣藤原朝臣緒嗣、この義を親王に授く、親王襲い持ちて、師法を失わず、と見えたり。この文板本には、一くだりばかり脱けたるを、今は古き写本によりて書き出でつ。さて古えは、奏寿宣命の、後の世の如くなおざりならず、大事なりしこと、これにて知るべし。古き書籍目録に、宣命譜と云う物の見えたるも、その音詞曲折をしるせるふみなるべし。
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『玉勝間』十三の巻 文字を添て書る例同集に、雖干跡、将有裳、不知爾、これらの書きざま、下なる跡の字裳の字爾の字余れるが如し。この例、続紀の宣命の詞、又菅家万葉などにも有り、その外にも有りしとおぼゆ。
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『玉勝間』一の巻 また続紀よりつぎつぎの史典も、今の本は、いづれもよろしからず、文字の誤りことに多く、脱けたることなども有り。そもそも、書紀は、訓大事なれば、たやすく手つけがたきを、続紀よりこなたの史は、宣命のところをおきてほかすべては、訓にことなること無く、ただ世のつねのから書の訓の如くにてよろしければ、今いかで三代実録までを、皆古き善き本を、これかれ読み合わせて、善きをえらびて、うるわしきえり板を成しおかまほしきわざなり。
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『玉勝間』八の巻 口状三代実録十三の巻、宣命の中に、口状と云うこと有り、今の世に口上と云うは是れなり。口状を口上と書くは、物語書に、几帳を几丁、本性を本上と書けるたぐいなり。
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『玉勝間』一の巻 からぶみ読みのことば漢籍を読むに、世のつねにことなる語の多きは、いと古くより読み来つるままの古語なるが、後に音便にくづれたるなり。曰をノタウマクと訓むは、ノタマハクの音便なり。またノタバクにても有るべし。古言に、フをタブとも云う故に、万葉の歌に、ノタマハクを、ノタバクとも詠めればなり。故をカルガユヱニと訓むは、カルガユエニなるを、カを一つはぶけるなり。是れは音便と云うには有らず。然而をシカウシテと訓むは、シカシテに、ウを添えたるにて、八日をヤウカ、女房をニヨウバウという類なり。是以をコレヲモテと訓まずして、ココヲモテと訓むは、古言のままなり。古言には、コレと云うべきを、ココと云える事つねに多し。さて以をモツテとひきつめて訓むは、例のいやしき音便なり。慮をオモンハカル、以をオモンミルと訓むは、オモヒハカル、オモヒミルなり。垂をナンナントスと訓むは、ナリナムトスなり。然るをナンナンタリとも訓むはひがことなり。欲をホツスと訓むは、ホリスなり。件をクダンノとよむは、クダリノなり。親をシタシンズ、重をオモンズ、賤をイヤシンズと訓むたぐいは、シタシミス、オモミス、イヤシミスにて、皆古言の格なり。
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『玉勝間』十の巻 たんざく三代実録廿七の巻に、短籍と見え、また卅五の巻に、短冊とも見えたり。但し歌を書く物にはあらず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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