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玉勝間 / 三の巻 心のおに

物語ぶみなどに、身にあやまちの有る者の、人はさること知らねども、おのが心からおそるるを、心の鬼と云へり。からぶみ列子注に、疑心生闇鬼、と云へる事あり。こころばへよく似たることなり。

書き下し

物語ぶみなどに、身にあやまちの有る者の、人はさること知らねども、おのが心からおそるるを、心の鬼と云えり。からぶみ列子の注に、疑心暗鬼を生ず、と云える事あり。こころばえよく似たることなり。

現代語訳

物語などに、身に過ちのある者が、人はそのことを知らないのに、自分の心から恐れることを「心の鬼」と言っている。中国の書物の列子の注に「疑う心が暗闇に鬼を生む」と言っていることがある。趣がよく似ていることである。

解説

平安の物語に出る「心の鬼」という言葉について、宣長は、やましいところのある者が人に知られていないのに自分の心で恐れることだと説明し、中国の「疑心暗鬼を生ず」とよく似ていると指摘する。「疑心暗鬼」は今では日常の四字熟語だが、宣長の時代には列子の注に見える言葉として知られていた。宣長は漢意を厳しく批判したが、中国の書物を読まなかったわけではなく、むしろ漢籍にも深く通じていた。ここでは和語の表現と漢籍の表現が、別々に同じ心の働きを捉えていることを淡々と示している。人の心の動きは国を越えて通じるところがあり、それを言い当てる言葉がそれぞれの言語に生まれる。「心の鬼」という言い方には、罪の意識が内から人を責めるさまが生々しく表れている。

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