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玉勝間 / 二の巻 春記

春記と云ふふみは、春宮ノ大夫資房ノ卿のにきなり。今の世には、唯だ一卷ならでは傳はらずと云へり。おのが見たりし本も、八十五ひら有て、一册のみなりき。

新字:春記と云ふふみは、春宮ノ大夫資房ノ卿のにきなり。今の世には、唯だ一巻ならでは伝はらずと云へり。おのが見たりし本も、八十五ひら有て、一册のみなりき。

書き下し

春記と云うふみは、春宮の大夫資房の卿のにきなり。今の世には、ただ一巻ならでは伝わらずと云えり。おのが見たりし本も、八十五ひら有りて、一冊のみなりき。

現代語訳

『春記』という書物は、春宮大夫藤原資房卿の日記である。今の世には、ただ一巻しか伝わらないという。私が見た本も、八十五丁あって一冊だけであった。

解説

平安中期の公卿藤原資房の日記『春記』についての短い覚え書きである。資房は『小右記』の筆者実資の孫にあたり、春宮大夫を務めたことから、その日記は春宮の「春」を取って『春記』と呼ばれる。宣長は、今の世には一巻しか伝わらないと聞いていること、自分が見た本も八十五丁の一冊だけだったことを記している。この巻で宣長は『小右記』『兵範記』など多くの古記録を写してきたが、それらは写本の形で人から人へ借りて読むほかなく、どれだけ伝わっているかを知ること自体が研究の一部だった。自分が見た本の丁数まで記すのは、後の人が別の本と照らし合わせる手がかりを残すためである。資料の所在と分量を正確に書き留める習慣は、今の研究の基本でもある。

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