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玉勝間 / 二の巻 ふみども今は得やすくなれる事

その頃までは、大かた斯かりけるに、此ちかき年頃となりては、寫本ながら代匠記も多く出て、さらに得がたからず成りぬるは、古學の道のひらけて、えうずる人多ければぞかし。さるは代匠記のみにも有らず、すべて寫しまきなる物は、家家の記錄などのたぐひ、その外の書どもも、いといと得がたかりしに、何も何も、今はたやすく得らるる事となれるは、いともいともめでたく尊き、御代の御榮えになん有りける。

新字:その頃までは、大かた斯かりけるに、此ちかき年頃となりては、写本ながら代匠記も多く出て、さらに得がたからず成りぬるは、古学の道のひらけて、えうずる人多ければぞかし。さるは代匠記のみにも有らず、すべて写しまきなる物は、家家の記録などのたぐひ、その外の書どもも、いといと得がたかりしに、何も何も、今はたやすく得らるる事となれるは、いともいともめでたく尊き、御代の御栄えになん有りける。

書き下し

その頃までは、大かた斯かりけるに、このちかき年頃となりては、写本ながら代匠記も多く出でて、さらに得がたからず成りぬるは、古学の道のひらけて、ようずる人多ければぞかし。さるは代匠記のみにも有らず、すべて写しまきなる物は、家家の記録などのたぐい、その外の書どもも、いといと得がたかりしに、何も何も、今はたやすく得らるる事となれるは、いともいともめでたく尊き、御代の御栄えになん有りける。

現代語訳

そのころまでは、だいたいこのようであったが、近年になっては、写本ではあるが『代匠記』も多く出回って、まったく手に入れにくくなくなったのは、古学の道が開けて、求める人が多いからである。とはいえ『代匠記』だけではない。写本で伝わる書物は、家々の記録などの類や、そのほかの書物も、たいへん手に入れにくかったのに、何もかも今はたやすく手に入るようになったのは、まことにめでたく尊い、御代の繁栄なのである。

解説

前の段の続きで、書物の手に入りやすさが大きく変わったことを喜んでいる。かつて入手に苦労した契沖の『代匠記』も、今は写本が多く出回るようになった。それは古学が広まり、求める人が増えたからだ、と宣長は見る。『代匠記』に限らず、公家の家々の記録なども今はたやすく手に入る。この巻で宣長が『小右記』『兵範記』など多くの古記録を写せたのも、その恩恵であった。宣長はこれを「御代の御栄え」、太平の世のおかげと称える。学問が盛んになれば書物が出回り、書物が出回れば学問がさらに進む、という循環を、宣長は実感していた。学ぶ人がいることが知識を世に残す力になるという事実は、今の出版や情報の世界にも当てはまる。

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