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駿台雑話 / 不忘向君二

二代監物は慶長十五年弟丹後守直奇と爭訟して、最上に謫せらる、この監物は父監物直政なるべし、)主人越後守伏見の邸にて、日暮に客を送り出けるに、越後守に怨ある者ありしが、かくれ居て急にきり懸しを、越後守も拔あはせし所に、監物はるかのうしろより一番に來て彼者をきり倒しけるを、左右に供したる士共諸ともに打とめけり、後日に右の士ども監物に逢て其日の事をいひ出で、日暮といひ不慮の事といひ我等ども心ならず、少しをくれ候ひしを、御身にははるかの跡に御渡り候つるに、いかなれば一番に手に御あひ候にや、不審なる事にこそ存候へといへば、いや各とて武邊の某におとるべきにてはなく候へども、某はかねてひとつの覺悟ありての事にて候、各は此覺悟なき故に某を先をさせらるゝとこそ存候へ、此後も各は殿の御供を勤めらるゝ事にて候へば、向後御心得にもなるべく候まゝ、今迄は人に申さぬ事に候へども傳受いたし候べし、

新字:二代監物は慶長十五年弟丹後守直奇と争訟して、最上に謫せらる、この監物は父監物直政なるべし、)主人越後守伏見の邸にて、日暮に客を送り出けるに、越後守に怨ある者ありしが、かくれ居て急にきり懸しを、越後守も抜あはせし所に、監物はるかのうしろより一番に来て彼者をきり倒しけるを、左右に供したる士共諸ともに打とめけり、後日に右の士ども監物に逢て其日の事をいひ出で、日暮といひ不慮の事といひ我等ども心ならず、少しをくれ候ひしを、御身にははるかの跡に御渡り候つるに、いかなれば一番に手に御あひ候にや、不審なる事にこそ存候へといへば、いや各とて武辺の某におとるべきにてはなく候へども、某はかねてひとつの覚悟ありての事にて候、各は此覚悟なき故に某を先をさせらるゝとこそ存候へ、此後も各は殿の御供を勤めらるゝ事にて候へば、向後御心得にもなるべく候まゝ、今迄は人に申さぬ事に候へども伝受いたし候べし、

書き下し

二代監物は慶長十五年弟丹後守直奇と爭訟して、最上に謫せらる、この監物は父監物直政なるべし、)主人越後守伏見の邸にて、日暮に客を送り出けるに、越後守に怨ある者ありしが、かくれ居て急にきり懸しを、越後守も拔あはせし所に、監物はるかのうしろより一番に來て彼者をきり倒しけるを、左右に供したる士共諸ともに打とめけり、後日に右の士ども監物に逢て其日の事をいひ出で、日暮といひ不慮の事といひ我等ども心ならず、少しをくれ候ひしを、御身にははるかの跡に御渡り候つるに、いかなれば一番に手に御あひ候にや、不審なる事にこそ存候へといへば、いや各とて武邊の某におとるべきにてはなく候へども、某はかねてひとつの覺悟ありての事にて候、各は此覺悟なき故に某を先をさせらるゝとこそ存候へ、此後も各は殿の御供を勤めらるゝ事にて候へば、向後御心得にもなるべく候まゝ、今迄は人に申さぬ事に候へども傳受いたし候べし、

現代語訳

二代目の監物は、慶長十五年に弟の丹後守直奇と訴訟を争い、最上へ流されました。ここでいう監物は父の監物直政でしょう。)主君の越後守が伏見の屋敷で、日暮れに客を送り出したところ、越後守に恨みを持つ者が隠れていて、急に斬りかかりました。越後守も刀を抜き合わせたところ、監物がはるか後ろから一番に駆けつけて、その者を斬り倒し、左右に供していた士たちも一緒に取り押さえました。後日、その士たちが監物に会って、その日のことを言い出し、「日暮れといい、不意のことといい、私どもは心ならずも少し遅れました。あなたははるか後ろにおられたのに、どうして一番に手を下されたのか、不審に思います」と言うと、監物は、「いや、皆さんが武辺で私に劣るというのではありませんが、私はかねてひとつの覚悟があってのことです。皆さんはこの覚悟がないから、私に先を越されたのだと思います。この後も皆さんは殿のお供を勤められるので、今後の心得にもなりましょうから、今まで人に申さなかったことですが、伝授いたしましょう。

解説

前段の括弧書きの続きで、堀監物の逸話が語られます。注記によれば、ここでの監物は父の監物直政と推定されています。伏見の屋敷で日暮れに、主君の越後守が恨みを持つ者に急に斬りかかられ、はるか後ろにいた監物が一番にその者を斬り倒した、という出来事です。供の士たちが後日、なぜ遅れて来たあなたが一番だったのかと尋ねると、監物は、かねてひとつの覚悟があると答え、今後の心得として伝授すると述べます。覚悟の中身は次の段に回されます。この逸話は、武勇の差ではなく、日ごろの心構えが非常時の速さを決める、という翁の見立てを支えます。現代でも、緊急事態の初動の速さは、準備された意識の差に表れます。

この章句が説くこと

覚悟初動堀監物心構え伝授駿台雑話

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