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正法眼蔵随聞記 / 巻二

後のこと明日の活計を思ふて、棄つへき世を捨てず、行ずべき道を行せずして、徒らに日夜を過すは口惜きことなり、只思ひきりて明日の活計なくば、飢へ死にもせよ、寒ごへ死にもせよ、今日一日道を聞て、佛意に隨て、死せんと思ふ心をまづ發すべきなり、然るときんば道を行じ得んこと一定なり、此の心なければ世にそむき道を學する樣なれども、猶しり足をふみて、夏冬の衣服等のことをした心にかけて、明日猶明年の活命を思ふて佛法を學せんは、萬劫千生學すともかなふべしともおぼへず、亦さる人もやあらんずらん、存知の意趣、佛祖の教へにはあるべしともおぼへざるなり、

新字:後のこと明日の活計を思ふて、棄つへき世を捨てず、行ずべき道を行せずして、徒らに日夜を過すは口惜きことなり、只思ひきりて明日の活計なくば、飢へ死にもせよ、寒ごへ死にもせよ、今日一日道を聞て、仏意に随て、死せんと思ふ心をまづ発すべきなり、然るときんば道を行じ得んこと一定なり、此の心なければ世にそむき道を学する様なれども、猶しり足をふみて、夏冬の衣服等のことをした心にかけて、明日猶明年の活命を思ふて仏法を学せんは、万劫千生学すともかなふべしともおぼへず、亦さる人もやあらんずらん、存知の意趣、仏祖の教へにはあるべしともおぼへざるなり、

書き下し

後のこと明日の活計を思ふて、棄つへき世を捨てず、行ずべき道を行せずして、徒らに日夜を過すは口惜きことなり、只思ひきりて明日の活計なくば、飢へ死にもせよ、寒ごへ死にもせよ、今日一日道を聞て、仏意に随て、死せんと思ふ心をまづ発すべきなり、然るときんば道を行じ得んこと一定なり、此の心なければ世にそむき道を学する様なれども、猶しり足をふみて、夏冬の衣服等のことをした心にかけて、明日猶明年の活命を思ふて仏法を学せんは、万劫千生学すともかなふべしともおぼへず、亦さる人もやあらんずらん、存知の意趣、仏祖の教へにはあるべしともおぼへざるなり、

現代語訳

後の事や明日の暮らしを思って、捨てるべき世を捨てず、行ずべき道を行わずに、いたずらに日夜を過ごすのは口惜しいことである。ただ思い切って、明日の暮らしがなければ飢え死にもせよ、凍え死にもせよ、今日一日、道を聞いて仏の御意に随って死のうと思う心を、まず起こすべきである。そうであるならば、道を行じ得ることは確かである。この心がなければ、世に背いて道を学ぶようであっても、なお後ずさりして、夏冬の衣服などのことを心の底にかけて、明日、さらには来年の暮らしを思って仏法を学ぶのでは、万劫千生学んでも、かなうとは思えない。またそのような人もあるだろうが、その心づもりは仏祖の教えにあるとは思えないのである。

解説

後ずさりという言葉が的確である。世を捨てたはずの者が、衣服や来年の暮らしを心の底に置いたまま学ぶ姿を指している。捨てる決断を、まず心の中で先に済ませよという順序で、実際に飢え死にすることを求めているのではない。万劫千生学んでもかなわないという強い言い方で、順序の逆転を戒めている。

この章句が説くこと

覚悟活計世を捨つ発心後退衣食

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