駿台雑話 / 兵法の大事三
但軍形は本なり、兵勢は軍形よりしてこそ出來にけれ、もし軍形亂れなば、士卒勇なりといふとも必敗軍すべし、この故に勝兵先勝而後求戰、敗兵先戰而後求勝といへり、先勝は軍形にあり、いまだ戰はぬ先に、必勝べき手だて定まる故に先勝とはいふ也、先勝て戰へば、兵鈍らず、戰とゞこほらず、敵を破る事破竹のごとくなるべし、よりて孫子に勝者之戰若決積水於千仭之谿者形也となん、是は必勝の形先定まりて、其勢に乘じて戰へば、なにの手もなく勝事をいへり、然るに合戰の塲に臨みてはゆるやかなるを嫌ふて、はげしきをいとはず、おそきを嫌て、はやきをいとはず、もしゆるやかにおそければ、士卒の心たるみて、其勢を失ふものなり、信繁の人數をあらくつかへといひしはこゝなり、是則兵勢なり、孫子に是を論じて、激水之疾至於漂石者勢也、鷙鳥之疾至於毀折者節也、故善戰者其勢險、其節短、勢如彍弩、節如發機といへり、すべて物には皷の拍子あるごとく、はり合てはづみのあるは勢なり、竹のふしあるごとく、きはだちて折めのあるは節也、水激して石のおもきを漂はすに至るは、岩にあたるはづみのつよければなり、
新字:但軍形は本なり、兵勢は軍形よりしてこそ出来にけれ、もし軍形乱れなば、士卒勇なりといふとも必敗軍すべし、この故に勝兵先勝而後求戦、敗兵先戦而後求勝といへり、先勝は軍形にあり、いまだ戦はぬ先に、必勝べき手だて定まる故に先勝とはいふ也、先勝て戦へば、兵鈍らず、戦とゞこほらず、敵を破る事破竹のごとくなるべし、よりて孫子に勝者之戦若決積水於千仭之谿者形也となん、是は必勝の形先定まりて、其勢に乗じて戦へば、なにの手もなく勝事をいへり、然るに合戦の塲に臨みてはゆるやかなるを嫌ふて、はげしきをいとはず、おそきを嫌て、はやきをいとはず、もしゆるやかにおそければ、士卒の心たるみて、其勢を失ふものなり、信繁の人数をあらくつかへといひしはこゝなり、是則兵勢なり、孫子に是を論じて、激水之疾至於漂石者勢也、鷙鳥之疾至於毀折者節也、故善戦者其勢険、其節短、勢如彍弩、節如発機といへり、すべて物には鼓の拍子あるごとく、はり合てはづみのあるは勢なり、竹のふしあるごとく、きはだちて折めのあるは節也、水激して石のおもきを漂はすに至るは、岩にあたるはづみのつよければなり、
書き下し
但軍形は本なり、兵勢は軍形よりしてこそ出來にけれ、もし軍形亂れなば、士卒勇なりといふとも必敗軍すべし、この故に勝兵先勝而後求戰、敗兵先戰而後求勝といへり、先勝は軍形にあり、いまだ戰はぬ先に、必勝べき手だて定まる故に先勝とはいふ也、先勝て戰へば、兵鈍らず、戰とゞこほらず、敵を破る事破竹のごとくなるべし、よりて孫子に勝者之戰若決積水於千仭之谿者形也となん、是は必勝の形先定まりて、其勢に乘じて戰へば、なにの手もなく勝事をいへり、然るに合戰の塲に臨みてはゆるやかなるを嫌ふて、はげしきをいとはず、おそきを嫌て、はやきをいとはず、もしゆるやかにおそければ、士卒の心たるみて、其勢を失ふものなり、信繁の人數をあらくつかへといひしはこゝなり、是則兵勢なり、孫子に是を論じて、激水之疾至於漂石者勢也、鷙鳥之疾至於毀折者節也、故善戰者其勢險、其節短、勢如彍弩、節如發機といへり、すべて物には皷の拍子あるごとく、はり合てはづみのあるは勢なり、竹のふしあるごとく、きはだちて折めのあるは節也、水激して石のおもきを漂はすに至るは、岩にあたるはづみのつよければなり、
現代語訳
ただし軍形が本であり、兵勢は軍形から生まれてくるものです。もし軍形が乱れれば、兵が勇敢であっても必ず敗軍するでしょう。そのため「勝つ兵はまず勝ってから戦いを求め、敗れる兵はまず戦ってから勝ちを求める」といいます。先に勝つとは軍形にあって、まだ戦わない先に、必ず勝てる手立てが定まっているので、先勝というのです。先に勝って戦えば、兵は鈍らず、戦いは滞らず、敵を破ることは破竹のようになるでしょう。そこで孫子に「勝つ者の戦いは、積水を千仭の谷に決するがごとし、形なり」とあります。これは必勝の形がまず定まり、その勢いに乗じて戦えば、なんの手もなく勝てることをいっています。ところが合戦の場に臨んでは、緩やかなのを嫌い、激しいのは嫌わず、遅いのを嫌い、速いのは嫌いません。もし緩やかで遅ければ、兵の心はたるんで、その勢いを失うものです。信繁が「人数を荒く使え」と言ったのはここのことで、これがすなわち兵勢です。孫子はこれを論じて、「激しい水の疾さが石を漂わせるまでに至るのは勢である。鷙鳥の疾さが獲物を毀ち折るまでに至るのは節である。ゆえに戦上手はその勢が険しく、その節が短い。勢は弩を引きしぼるごとく、節は機を発するごとし」といっています。すべて物には、鼓の拍子のように張り合って弾みがあるものが勢です。竹の節のようにきわだって折り目があるものが節です。水が激しくなって重い石を漂わせるに至るのは、岩にあたる弾みが強いからです。
解説
この章句が説くこと
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言志四録・言志晩録 第二百八十条 養生の工夫は節の一字養生の工夫は、節の一字に在り。
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『弁名』節儉節は礼義の節なり。礼義は皆限る所有りて踰越すべからざる者あり。是を之れ節と謂ふ。之を節すと云ふ者は、其の限りを守りて敢へて踰えざるなり。大節は、乃ち礼義の大限を謂ふなり。皆道の目なり。「聖は節に達し、次は節を守る」の言有りてより、而して後世遂に節士・節婦の称有りて、以て其の人の徳に命くるのみ。
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易経・彖伝「節(せつ)は亨(とお)る」。剛柔分かれて剛は中を得たり。「苦節(くせつ)は貞(てい)にすべからず」とは、其の道窮(きわ)まればなり。説(よろこ)びて以て險(けん)を行き、位に當(あ)たりて以て節し、中正にして以て通ず。天地節して四時(しじ)成る。節するに制度を以てすれば、財を傷(そこな)わず、民を害せず。
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『玉勝間』七の巻 年の始のせちと云ふ事年のはじめに、いわゆる振る舞いなどする事を、節と云う。壬生の忠見家集に、或るところの屏風、正月せちするところ有り、春霞たつと云う日をむかえつつ年のあるじと我やなりなむ。
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