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徂徠先生答問書 / 卷下

一學問仕樣の事御尋被仰下候。此段中々書中にては被申盡不申事に候。遠境投贄の義從來何方へも一切御斷申入候儀此故に候。其元へは多年の御深志承及候故任御望今更御答に致迷惑候。先は遠境より傳授は難成事是事理の當然に候。依是孔門之諸子も何も被致從學候事に候。その子細は、其門に入候得ば門風と申事有之。樣々の事にて其風儀に染候所より思致過半候事に候。從古師友と申事有之、師敎よりは朋友の切磋にて知見を博め學問は進候事に候。當時大名高位の稽古埒明不申候事、よき師をば引付學被申候得共、位貴候故朋友無之。依是何藝も不致成就事是明證に候。朋友に交り門風に染候事是第一の事に候。然れば遠境にて傳授難成事顯然に候。然共御深志に御座候間、其師友の代に成申事可申進候。責ては是にて成とも可被償御志候。其師友の代に成申儀は書籍にて候。損友を遠け益友を近付候事取友の道に候。然ば損の參候書籍は目に總て御覽有間敷候。益に成候書籍に御心を可被染候。是より外に別に師友の代に成候事無之候。

新字:一学問仕様の事御尋被仰下候。此段中々書中にては被申尽不申事に候。遠境投贄の義従来何方へも一切御断申入候儀此故に候。其元へは多年の御深志承及候故任御望今更御答に致迷惑候。先は遠境より伝授は難成事是事理の当然に候。依是孔門之諸子も何も被致従学候事に候。その子細は、其門に入候得ば門風と申事有之。様々の事にて其風儀に染候所より思致過半候事に候。従古師友と申事有之、師教よりは朋友の切磋にて知見を博め学問は進候事に候。当時大名高位の稽古埒明不申候事、よき師をば引付学被申候得共、位貴候故朋友無之。依是何芸も不致成就事是明証に候。朋友に交り門風に染候事是第一の事に候。然れば遠境にて伝授難成事顕然に候。然共御深志に御座候間、其師友の代に成申事可申進候。責ては是にて成とも可被償御志候。其師友の代に成申儀は書籍にて候。損友を遠け益友を近付候事取友の道に候。然ば損の参候書籍は目に総て御覧有間敷候。益に成候書籍に御心を可被染候。是より外に別に師友の代に成候事無之候。

書き下し

一学問仕様の事御尋被仰下候。此段中々書中にては被申尽不申事に候。遠境投贄の義従来何方へも一切御断申入候儀此故に候。其元へは多年の御深志承及候故任御望今更御答に致迷惑候。先は遠境より伝授は難成事是事理の当然に候。依是孔門之諸子も何も被致従学候事に候。その子細は、其門に入候得ば門風と申事有之。様々の事にて其風儀に染候所より思致過半候事に候。従古師友と申事有之、師教よりは朋友の切磋にて知見を博め学問は進候事に候。当時大名高位の稽古埒明不申候事、よき師をば引付学被申候得共、位貴候故朋友無之。依是何芸も不致成就事是明証に候。朋友に交り門風に染候事是第一の事に候。然れば遠境にて伝授難成事顕然に候。然共御深志に御座候間、其師友の代に成申事可申進候。責ては是にて成とも可被償御志候。其師友の代に成申儀は書籍にて候。損友を遠け益友を近付候事取友の道に候。然ば損の参候書籍は目に総て御覧有間敷候。益に成候書籍に御心を可被染候。是より外に別に師友の代に成候事無之候。

現代語訳

一、学問の仕方についてお尋ねをいただきました。これはなかなか書面では言い尽くせないことです。遠方からの入門の申し出を、従来どこからのものも一切お断りしてきたのは、このためです。そちらへは長年のご熱意を承っておりましたので、ご希望に任せ、今さらながらお答えに窮しております。まず遠方から伝授することはできない、これは事理の当然です。だから孔子の門の弟子たちも、みな付き従って学んだのです。その子細は、その門に入れば門風というものがあり、さまざまなことでその風儀に染まるところから、思いの過半を得るものだからです。古くから「師友」ということがあり、師の教えよりも朋友の切磋で知見を広め、学問は進むものです。今の大名や高位の人の稽古がはかどらないのは、よい師を招いて学んでも、位が貴いので朋友がいないからです。このためどの芸も成就しないのが、その明らかな証拠です。朋友と交わり門風に染まることが第一のことです。ですから遠方では伝授しがたいことは明白です。けれどもご熱意がありますので、その師友の代わりになることを申し上げましょう。せめてこれによってでも、お志を果たしてください。その師友の代わりになるのは書籍です。損友を遠ざけ益友を近づけるのが友を取る道です。ですから損になる書籍はおよそご覧になってはいけません。益になる書籍にお心を染めてください。これよりほかに別に師友の代わりになるものはありません。

解説

学問の仕方を問われた徂徠は、まず遠方の伝授はできないと率直に言う。学びの過半は門に入ってその気風に染まることから得られ、師の教え以上に朋友との切磋が知見を広げるからである。大名が上達しないのは位が高くて仲間がいないからだという指摘は鋭い。そのうえで、仲間の代わりは書物だと説き、損友と益友を選ぶように書物を選べと言う。孤独になりがちな経営者が、率直に言い合える仲間と、質の高い書物の両方を意識して持つことの大切さを教える。

この章句が説くこと

師友朋友門風学問読書切磋

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